「厳しくて、辛い道だったな」

ウォーミングアップの段階からファンのボルテージは高まり、出場時、そしてゴールの際の盛り上がりは凄まじいものとなった。誰もが待ち望んでいた瞬間なのだから、それも当然だ。 (C) Getty Images
試合終了後、ミックスゾーンへの道を急いでいると、テレビモニターを見ていたスタッフが、持ち場を離れて周りの人に伝え回っている光景に出くわした。メディア用の入り口に立つ他のスタッフも、こちらへの対応もそこそこに、マイアーのゴールの話に集中していた。
「エッ、最後3点目が決まったの? 誰が決めたの?」
「アレックスだよ! アレックスが決めたんだ!」
「本当に! 凄い、凄い!」
ピッチから引き揚げてきたマイアーは、テレビ各局のインタビューを幾つも受け、その後はペン記者の方へゆっくりと歩いてきた。手には、コバチ監督から手渡された、得点を決めたボール。そして、地元紙の記者と笑顔でやり取りする。196センチと大柄だが、声はとても柔らかく、いつでも謙虚で落ち着いている。
「2-0となった後、試合に出られるかな? とちょっと思ったんだ。
あの歓声は凄かったよ。素晴らしいとしか言えない。もう一度、感謝の想いを伝えたい。
すごく大事な勝利だと思うよ。EL出場を自力で決めるチャンスがあるわけだからね。どんなチームにも、シーズンを通して難しい時期があると思うけど、僕らはそこを乗り越えてきた」
試合翌日、『ビルト』紙のインタビューに答え、ゴールシーンを改めて振り返ったマイアー。彼は興奮のあまり、スタジアムの大歓声も分からなかったという。
「アドレナリンがすごく出ていたから、周りのことはあまりに分からなかったんだ。背中に誰かが乗っかってきたけど、誰かが来たな、というくらいで、それが誰なのかは分からなかったぐらいだから」
試合後に多くの祝福のメッセージを受けた彼は、こうも明かしている。
「これまでのことを思い出していたんだ。厳しくて、辛い道だったなって」
カムバックは果たした。それも、これ以上ないかたちで。そんなマイアーだが、現行の契約は今夏まで、契約延長はまだ決まっていない。ファンはクラブ対し、「功労者にリスペクトを、アレックスに契約を!」と書かれた横断幕を、試合中に掲げて猛アピールしていた。
この日のゴールは、フランクフルトで通算137得点目。14年間で379試合、クラブのためにプレーしてきたマイアーだが、これで最後にするつもりはない。
「僕はいつだって、試合に出るために希望を持ってやっているよ。プロサッカー選手として毎日、そのために自分と向き合っているんだから」
今シーズンはまだ、シャルケとのリーグ最終戦、そしてバイエルンとのDFBカップ決勝がまだある。そして、来シーズンも――。
物語にはまだ、続きがあるはずだ。マイアーがピッチにいる。フランクフルトのファンは、その風景をこれからもずっと、見ていたいのだ。
文:中野 吉之伴
【著者プロフィール】
なかの・きちのすけ/1977年7月27日秋田生まれ。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。地域に密着したアマチュアチームで様々なレベルのU-12からU-19チームで監督を歴任。2009年7月にドイツ・サッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA−Aレベル)。SCフライブルクU-15チームで研修を積み、2016-17シーズンからドイツU-15・4部リーグ所属FCアウゲンで監督を務める。「ドイツ流タテの突破力」(池田書店)監修、「世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書」(カンゼン)執筆。最近は日本で「グラスルーツ指導者育成」「保護者や子供のサッカーとの向き合い方」「地域での相互ネットワーク構築」をテーマに、実際に現地に足を運んで様々な活動をしている。
「エッ、最後3点目が決まったの? 誰が決めたの?」
「アレックスだよ! アレックスが決めたんだ!」
「本当に! 凄い、凄い!」
ピッチから引き揚げてきたマイアーは、テレビ各局のインタビューを幾つも受け、その後はペン記者の方へゆっくりと歩いてきた。手には、コバチ監督から手渡された、得点を決めたボール。そして、地元紙の記者と笑顔でやり取りする。196センチと大柄だが、声はとても柔らかく、いつでも謙虚で落ち着いている。
「2-0となった後、試合に出られるかな? とちょっと思ったんだ。
あの歓声は凄かったよ。素晴らしいとしか言えない。もう一度、感謝の想いを伝えたい。
すごく大事な勝利だと思うよ。EL出場を自力で決めるチャンスがあるわけだからね。どんなチームにも、シーズンを通して難しい時期があると思うけど、僕らはそこを乗り越えてきた」
試合翌日、『ビルト』紙のインタビューに答え、ゴールシーンを改めて振り返ったマイアー。彼は興奮のあまり、スタジアムの大歓声も分からなかったという。
「アドレナリンがすごく出ていたから、周りのことはあまりに分からなかったんだ。背中に誰かが乗っかってきたけど、誰かが来たな、というくらいで、それが誰なのかは分からなかったぐらいだから」
試合後に多くの祝福のメッセージを受けた彼は、こうも明かしている。
「これまでのことを思い出していたんだ。厳しくて、辛い道だったなって」
カムバックは果たした。それも、これ以上ないかたちで。そんなマイアーだが、現行の契約は今夏まで、契約延長はまだ決まっていない。ファンはクラブ対し、「功労者にリスペクトを、アレックスに契約を!」と書かれた横断幕を、試合中に掲げて猛アピールしていた。
この日のゴールは、フランクフルトで通算137得点目。14年間で379試合、クラブのためにプレーしてきたマイアーだが、これで最後にするつもりはない。
「僕はいつだって、試合に出るために希望を持ってやっているよ。プロサッカー選手として毎日、そのために自分と向き合っているんだから」
今シーズンはまだ、シャルケとのリーグ最終戦、そしてバイエルンとのDFBカップ決勝がまだある。そして、来シーズンも――。
物語にはまだ、続きがあるはずだ。マイアーがピッチにいる。フランクフルトのファンは、その風景をこれからもずっと、見ていたいのだ。
文:中野 吉之伴
【著者プロフィール】
なかの・きちのすけ/1977年7月27日秋田生まれ。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。地域に密着したアマチュアチームで様々なレベルのU-12からU-19チームで監督を歴任。2009年7月にドイツ・サッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA−Aレベル)。SCフライブルクU-15チームで研修を積み、2016-17シーズンからドイツU-15・4部リーグ所属FCアウゲンで監督を務める。「ドイツ流タテの突破力」(池田書店)監修、「世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書」(カンゼン)執筆。最近は日本で「グラスルーツ指導者育成」「保護者や子供のサッカーとの向き合い方」「地域での相互ネットワーク構築」をテーマに、実際に現地に足を運んで様々な活動をしている。