あのふたりがいなかったら、辞めていたかもしれない
11月のある晴れた日、ギラヴァンツ北九州の練習場。38歳になった天真爛漫な男が出迎えてくれた。満面の笑みだ。まるで変わっていない。「いま着いたんですか? 楽しみにしてましたよ。ありがとうございます!」と、超が付くほど腰も低い。
本山は昨年11月、右膝の前十字靭帯を損傷した。キャリアにおける最大の怪我だ。12月に手術を受け、離脱期間は8か月。だが復帰後に今度は半月板を傷めてしまう。ふたたびメスを入れ、さらに2か月の欠場を余儀なくされた。
「ここまで大きな怪我ってしたことなかったし、前十字がどれだけヤバイかってのは、ミツオ(小笠原満男)とコウジ(中田浩二)が傷めるのを間近で見てたから、よく分かってました。これは厳しいかもなって。で、すぐですね、ふたりに電話しました。えーって驚いてましたね。ミツオは『大丈夫だよ、すぐ治るよ』っていつもの感じで(笑)。いやいやいや、そんなわけないでしょーと。でも救われましたよ、支えてもらって。あのふたりがいなかったら、サッカーを辞めていたかもしれない」
小笠原、中田、さらには曽ケ端準。鹿島アントラーズでともに栄華を極めた同期入団の親友たちだ。その絆は、周りが考えている以上に深い。
10月1日、J3リーグ第25節のSC相模原戦。残り10分のタイミングで、本山はピッチに投入される。およそ10か月ぶりの実戦復帰だ。リハビリに費やした時間は恐ろしく長く、苦しく孤独で、自暴自棄になってもおかしくなかっただろう。だが、このMFはいっさい弱音を吐かない。私が出会ったフットボーラーの中でも、図抜けてポジティブな考えの持ち主だ。
「よしやるぞって、いったん決めてからはあっという間でしたね。専門の施設に入って、朝早く起きて黙々とメニューをこなしながら、規則正しい生活をする。夜なんて9時には消灯だから(笑)。それがどういうわけか、新鮮で楽しくて。復帰したいまだって、右と左で膝の動きが違う。やっぱ傷めたほうはまだ硬い。怪我をする前のイメージ通りのプレーってできてないけど、昔に戻すっていうよりは、サッカーがしっかりできるようにするのが大事だなって。僕は過去を振り返るのが好きじゃない。良いことも悪いこともあるけど、振り返ったらいまやってることに迷いが生じる。いまやれることを全力でやりたい性分なんで」
これこそがまさに、本山の真骨頂だろう。長い付き合いで一度も愚痴を聞いたことがないし、指導者やチームメイトを批判するような発言もいっさいない。だから、本山を悪く言う人間にも会ったことがない。その一方で、他人に絶対に踏み込ませない確固たる領域、価値観がある。いろんな者のアドバイスに耳を傾けるが、決して信念は曲げない。かなりの頑固者。この二面性が、本山の魅力なのである。
昔の記憶はあんまりないから、今日は大した話ができませんよ、と笑う。そうは問屋が卸さない。
本山は昨年11月、右膝の前十字靭帯を損傷した。キャリアにおける最大の怪我だ。12月に手術を受け、離脱期間は8か月。だが復帰後に今度は半月板を傷めてしまう。ふたたびメスを入れ、さらに2か月の欠場を余儀なくされた。
「ここまで大きな怪我ってしたことなかったし、前十字がどれだけヤバイかってのは、ミツオ(小笠原満男)とコウジ(中田浩二)が傷めるのを間近で見てたから、よく分かってました。これは厳しいかもなって。で、すぐですね、ふたりに電話しました。えーって驚いてましたね。ミツオは『大丈夫だよ、すぐ治るよ』っていつもの感じで(笑)。いやいやいや、そんなわけないでしょーと。でも救われましたよ、支えてもらって。あのふたりがいなかったら、サッカーを辞めていたかもしれない」
小笠原、中田、さらには曽ケ端準。鹿島アントラーズでともに栄華を極めた同期入団の親友たちだ。その絆は、周りが考えている以上に深い。
10月1日、J3リーグ第25節のSC相模原戦。残り10分のタイミングで、本山はピッチに投入される。およそ10か月ぶりの実戦復帰だ。リハビリに費やした時間は恐ろしく長く、苦しく孤独で、自暴自棄になってもおかしくなかっただろう。だが、このMFはいっさい弱音を吐かない。私が出会ったフットボーラーの中でも、図抜けてポジティブな考えの持ち主だ。
「よしやるぞって、いったん決めてからはあっという間でしたね。専門の施設に入って、朝早く起きて黙々とメニューをこなしながら、規則正しい生活をする。夜なんて9時には消灯だから(笑)。それがどういうわけか、新鮮で楽しくて。復帰したいまだって、右と左で膝の動きが違う。やっぱ傷めたほうはまだ硬い。怪我をする前のイメージ通りのプレーってできてないけど、昔に戻すっていうよりは、サッカーがしっかりできるようにするのが大事だなって。僕は過去を振り返るのが好きじゃない。良いことも悪いこともあるけど、振り返ったらいまやってることに迷いが生じる。いまやれることを全力でやりたい性分なんで」
これこそがまさに、本山の真骨頂だろう。長い付き合いで一度も愚痴を聞いたことがないし、指導者やチームメイトを批判するような発言もいっさいない。だから、本山を悪く言う人間にも会ったことがない。その一方で、他人に絶対に踏み込ませない確固たる領域、価値観がある。いろんな者のアドバイスに耳を傾けるが、決して信念は曲げない。かなりの頑固者。この二面性が、本山の魅力なのである。
昔の記憶はあんまりないから、今日は大した話ができませんよ、と笑う。そうは問屋が卸さない。