浦和レッズ戦のキーマンは――。
マンシーニの後任に指名されたのは、ヴィニシウス・エウトロピオ。ボランチとして中小クラブを渡り歩いた16年間の現役生活を終えた後は、フルミネンセのコーチなどを務め、ポルトガルのエストリウや国内のアメリカ・ミネイロといった中堅クラブで指揮を執り、14年12月にシャペコエンセの監督にも就任している。
だが、シーズン序盤こそ堅守を構築して好調だったチームは、得点力不足が響いて成績が次第に下降。わずか9か月で解任の憂き目を見る。それでもチームの土台を作り上げたのは事実で、16年シーズンの快進撃もその功績を抜きには語れないとの声があり、一定の評価を受けていた。
今年は2部のサンタクルスを率いていたが、6月に途中退任。フリーの身だったところに、シャペコエンセからのオファーが舞い込んだ。会長をはじめクラブ首脳との関係が良好だったことも、招聘を後押ししたようだ。
エストリウ時代に欧州の最新戦術を学んでいるエウトロピオは、自身の目指すスタイルをこう語る。
「ライン間の距離を狭めて精力的に守り、カウンターにこだわりすぎることなく状況に応じてボールポゼッションも重視する。攻守両面でインテリジェンスを発揮し、柔軟にプレーできるチームを作りたい」
では、エウトロピオが指揮を執りはじめてからのシャペコエンセの戦いぶりは、どうだったか。具体的に振り返っていく。
監督就任直後、エウトロピオは「シーズン途中なので、システムや選手起用の大幅な変更はすぐには行なわない」と語り、初陣となった12節のアトレチコ・パラナエンセ戦は4-3-3を踏襲。選手起用も中国リーグに移籍したロッシの右ウイングにベネズエラ代表のルイス・セイハスを先発させた以外は、従来通りだった。
試合は開始早々の2分に右サイドを崩されて先制を許したものの、16分にMFルーカス・マルケスの見事なミドルシュートで追いつき、そのまま1-1のドローで終わっている。
13節のスポルチ・レシフェ戦も同じ布陣。前半は互角に渡り合ったが、後半に失点を重ねて0-3で敗れ去った。この敗戦を受けて、続くサンパウロ戦はシステムを4-4-2に変更し、CFには下部組織出身の19歳ペロッチを初先発させる。
前半は相手に中盤を支配される厳しい展開。だが、守護神ジャンドレイの好守と敵のシュートミスに助けられ、無失点で凌ぎ切る。すると後半、CKから長身FWトゥーリオ・デ・メロがヘッドで決めて先制。さらに終了間際、高い位置でボールを奪ったMFルーカス・マルケスがミドルシュートを叩き込み、新監督の下で初勝利を飾った。
4-1-4-1のシステムで臨んだ15節のサントス戦は、アンカーに出場停止のアンドレイ・ジロット(元京都サンガ)に代えてモイゼス・リベイロ(元アビスパ福岡)を起用し、中盤は右からセイハス、ルーカス・マルケス、ルーカス・ミネイロ、ルイス・アントニオを並べ、最前線は左ウイングを本職とするアルトゥール・カイッキの1トップ。前半はこの新布陣が見事に機能し、中盤を支配して決定機を作り続けた。
だが、相手GKの好守に阻まれ、なかなかゴールを割れない。すると、運動量が落ちてラインがやや間延びした後半は、サントスの個人技を抑えきれなくなり、61分に失点。結局は0-1で惜敗した。
ただ、前向きに捉えられる敗戦だった。選手たちも「負けたけど、強豪とのアウェーゲームで良い内容の試合ができた」と手応えを掴んだ様子だった。
事実、以降の2試合は連勝を飾っている。左SBレイナウドのPKで先制した16節のヴィトーリア戦は、後半に一度追いつかれたものの、失点からわずか2分後、下部組織出身のFWローレンシーがネットを揺らし2-1で勝利。その3日後は、王者として臨んでいるコパ・スダメリカーナのラウンド・オブ32、デフェンサ・イ・フスティシア(アルゼンチン)との第2レグを戦った。
敵地での第1レグを0-1で落としていたシャペコエンセは、25分にFWデ・メロがCKを頭で合わせて先制し、前半でタイスコアに持ち込む。その後は相手の強固な守りに手を焼き追加点を奪えず、勝負はPK戦へ。このPK戦で躍動したのが、2本をストップした守護神ジャンドレイだ。4人連続で決めたシャペコエンセは、ベスト16の切符を勝ち取った。
印象的だったのが、試合後の光景だ。PK戦を制した瞬間、多くのサポーターが涙ぐんでいた。ブラジル人の贔屓チームに対する思い入れはすさまじいものがあるが、サンパウロやリオに本拠を構えるビッグクラブのサポーターなら、おそらく泣きはしない。シャペコエンセのファンの純朴さ、昨年のチームが優勝を勝ち取ったこの大会への愛着、そしてとてつもないクラブ愛を改めて感じた。
最後に、8月15日に対戦する浦和レッズ戦を展望する。予想フォーメーションは、4-4-2。中盤の底で攻守に貢献するジロット、抜群のスピードで右サイドを切り裂く右SBアポジ(元ヴェルディ東京)、精度の高いクロスとロングスローが持ち味の左SBレイナウド、チーム一のテクニシャンで創造性を発揮するアタッカーのセイハスらが成否を左右するキーマンだ。
日本には試合の数日前に到着できるので、長旅による疲労と時差ボケの心配は不要だろう。エウトロピオ監督は、「飛行機事故に遭った犠牲者の名誉のためにも、全身全霊を傾けてプレーし、タイトルをシャペコに持ち語りたい」と意欲満々だ。
浦和レッズを倒せば、昨年のコパ・スダメリカーナに次ぐ国際タイトルだ。クラブ一丸となって勝利を目指す。
取材・文:沢田啓明
※ワールドサッカーダイジェスト2017.08.17号より加筆・修正
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【著者プロフィール】
さわだ ひろあき/1986年にブラジル・サンパウロへ移り住み、以後、ブラジルと南米のフットボールを追い続けている。日本のフットボール専門誌、スポーツ紙、一般紙、ウェブサイトなどに寄稿しており、著書に『マラカナンの悲劇』、『情熱のブラジルサッカー』などがある。1955年、山口県出身。
だが、シーズン序盤こそ堅守を構築して好調だったチームは、得点力不足が響いて成績が次第に下降。わずか9か月で解任の憂き目を見る。それでもチームの土台を作り上げたのは事実で、16年シーズンの快進撃もその功績を抜きには語れないとの声があり、一定の評価を受けていた。
今年は2部のサンタクルスを率いていたが、6月に途中退任。フリーの身だったところに、シャペコエンセからのオファーが舞い込んだ。会長をはじめクラブ首脳との関係が良好だったことも、招聘を後押ししたようだ。
エストリウ時代に欧州の最新戦術を学んでいるエウトロピオは、自身の目指すスタイルをこう語る。
「ライン間の距離を狭めて精力的に守り、カウンターにこだわりすぎることなく状況に応じてボールポゼッションも重視する。攻守両面でインテリジェンスを発揮し、柔軟にプレーできるチームを作りたい」
では、エウトロピオが指揮を執りはじめてからのシャペコエンセの戦いぶりは、どうだったか。具体的に振り返っていく。
監督就任直後、エウトロピオは「シーズン途中なので、システムや選手起用の大幅な変更はすぐには行なわない」と語り、初陣となった12節のアトレチコ・パラナエンセ戦は4-3-3を踏襲。選手起用も中国リーグに移籍したロッシの右ウイングにベネズエラ代表のルイス・セイハスを先発させた以外は、従来通りだった。
試合は開始早々の2分に右サイドを崩されて先制を許したものの、16分にMFルーカス・マルケスの見事なミドルシュートで追いつき、そのまま1-1のドローで終わっている。
13節のスポルチ・レシフェ戦も同じ布陣。前半は互角に渡り合ったが、後半に失点を重ねて0-3で敗れ去った。この敗戦を受けて、続くサンパウロ戦はシステムを4-4-2に変更し、CFには下部組織出身の19歳ペロッチを初先発させる。
前半は相手に中盤を支配される厳しい展開。だが、守護神ジャンドレイの好守と敵のシュートミスに助けられ、無失点で凌ぎ切る。すると後半、CKから長身FWトゥーリオ・デ・メロがヘッドで決めて先制。さらに終了間際、高い位置でボールを奪ったMFルーカス・マルケスがミドルシュートを叩き込み、新監督の下で初勝利を飾った。
4-1-4-1のシステムで臨んだ15節のサントス戦は、アンカーに出場停止のアンドレイ・ジロット(元京都サンガ)に代えてモイゼス・リベイロ(元アビスパ福岡)を起用し、中盤は右からセイハス、ルーカス・マルケス、ルーカス・ミネイロ、ルイス・アントニオを並べ、最前線は左ウイングを本職とするアルトゥール・カイッキの1トップ。前半はこの新布陣が見事に機能し、中盤を支配して決定機を作り続けた。
だが、相手GKの好守に阻まれ、なかなかゴールを割れない。すると、運動量が落ちてラインがやや間延びした後半は、サントスの個人技を抑えきれなくなり、61分に失点。結局は0-1で惜敗した。
ただ、前向きに捉えられる敗戦だった。選手たちも「負けたけど、強豪とのアウェーゲームで良い内容の試合ができた」と手応えを掴んだ様子だった。
事実、以降の2試合は連勝を飾っている。左SBレイナウドのPKで先制した16節のヴィトーリア戦は、後半に一度追いつかれたものの、失点からわずか2分後、下部組織出身のFWローレンシーがネットを揺らし2-1で勝利。その3日後は、王者として臨んでいるコパ・スダメリカーナのラウンド・オブ32、デフェンサ・イ・フスティシア(アルゼンチン)との第2レグを戦った。
敵地での第1レグを0-1で落としていたシャペコエンセは、25分にFWデ・メロがCKを頭で合わせて先制し、前半でタイスコアに持ち込む。その後は相手の強固な守りに手を焼き追加点を奪えず、勝負はPK戦へ。このPK戦で躍動したのが、2本をストップした守護神ジャンドレイだ。4人連続で決めたシャペコエンセは、ベスト16の切符を勝ち取った。
印象的だったのが、試合後の光景だ。PK戦を制した瞬間、多くのサポーターが涙ぐんでいた。ブラジル人の贔屓チームに対する思い入れはすさまじいものがあるが、サンパウロやリオに本拠を構えるビッグクラブのサポーターなら、おそらく泣きはしない。シャペコエンセのファンの純朴さ、昨年のチームが優勝を勝ち取ったこの大会への愛着、そしてとてつもないクラブ愛を改めて感じた。
最後に、8月15日に対戦する浦和レッズ戦を展望する。予想フォーメーションは、4-4-2。中盤の底で攻守に貢献するジロット、抜群のスピードで右サイドを切り裂く右SBアポジ(元ヴェルディ東京)、精度の高いクロスとロングスローが持ち味の左SBレイナウド、チーム一のテクニシャンで創造性を発揮するアタッカーのセイハスらが成否を左右するキーマンだ。
日本には試合の数日前に到着できるので、長旅による疲労と時差ボケの心配は不要だろう。エウトロピオ監督は、「飛行機事故に遭った犠牲者の名誉のためにも、全身全霊を傾けてプレーし、タイトルをシャペコに持ち語りたい」と意欲満々だ。
浦和レッズを倒せば、昨年のコパ・スダメリカーナに次ぐ国際タイトルだ。クラブ一丸となって勝利を目指す。
取材・文:沢田啓明
※ワールドサッカーダイジェスト2017.08.17号より加筆・修正
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【著者プロフィール】
さわだ ひろあき/1986年にブラジル・サンパウロへ移り住み、以後、ブラジルと南米のフットボールを追い続けている。日本のフットボール専門誌、スポーツ紙、一般紙、ウェブサイトなどに寄稿しており、著書に『マラカナンの悲劇』、『情熱のブラジルサッカー』などがある。1955年、山口県出身。