【シャペコエンセ連載・復興への軌跡】第6回「2017年シーズンの前半戦総括」

カテゴリ:ワールド

沢田啓明

2017年08月13日

劇的な決勝点を挙げたラヌース戦がベストゲーム。

前半戦のベストゲームは、コパ・リベルタドーレスのラヌース戦(写真)。1-1で迎えた88分、CBルイス・オタビオが相手3人に競り勝ってヘッドを叩き込み、劇的な勝利を飾った。 (C)Getty Images

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2016年11月28日に起きた事件を、覚えている方は多いはずだ。ブラジルの1部リーグに所属するクラブ、シャペコエンセの一行を乗せた飛行機が墜落し、多くの尊い命が犠牲となったあの大事件だ。
 
 あれから、およそ9か月が経った。クラブ存続の危機に直面したシャペコエンセはしかし、着実に復興へと進んでいる。そして8月15日には、コパ・スダメリカーナ王者として臨むスルガ銀行チャンピオンシップで、浦和レッズと対戦する予定だ。
 
 シャペコエンセの来日を記念してお届けするのは、現地在住のサッカージャーナリスト、沢田啓明氏が飛行機事故からの歩みを追ったドキュメンタリー連載だ。第6回はピッチに目を向け、いくつかのサプライズを提供したシーズン前半戦を総括する。
 
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 昨年11月末の飛行機墜落事故でクラブが壊滅的な損失を被ってから7か月、1月末にシーズンが始まってから5か月が過ぎた。「クラブとチームを同時に再建する」という世界スポーツ史上でも例のない挑戦に乗り出したシャペコエンセが、奮闘を続けている。今回はピッチに目を向け、17年シーズンの前半戦を総括したい。
 
 昨年のコパ・スダメリカーナ優勝チームであるシャペコエンセは、17年シーズンのコパ・リベルタドーレ、レコパ・スダメリカーナ(南米スーパーカップ)、スルガ銀行チャンピオンシップの出場権を獲得。バルセロナなど欧州ビッグクラブからの招待試合のオファーも届き、皮肉にもチームが消滅した直後に、年間70試合前後をこなす超過密日程を強いられる運びとなった。
 
 こうした状況も踏まえ、主力の大半を失ったチームは30人近い選手を獲得。プリニオ・ダビ・デ・ネス・フィーリョ会長は、「州リーグは優勝、コパ・リベルタドーレスは1次リーグを突破し、全国リーグは10位以内に入る」ことを目標に掲げた。
 
 1月末、州リーグとプリメイラ・リーガが開幕。州リーグは昨年優勝しており、連覇がかかっていた。プリメイラ・リーガは、ブラジル南部の強豪16クラブによる歴史の浅い大会だ。日程が重複していたため2チームを編成。州リーグはAチームで、プリメイラ・リーガはBチームで戦った。
 
 前期と後期の2ステージ制となる州リーグは、それぞれの覇者が最後に優勝決定戦を行なうレギュレーション。前期は監督が目指す中盤の激しいプレス、サイドをえぐっての素早い攻撃が機能せず、2位に留まった。
 
 ちょうどこの頃、プリメイラ・リーガの1次リーグが終わり、2分け1敗で敗退する。これを受けて2チームを融合。Bチームで際立っていた運動量豊富な左ウイングのアルトゥール・カイッキ、攻守に貢献できるMFルイス・アントニオらがAチームに加わった。この「補強」によってチーム力が高まり、後期を制覇。同州の宿敵アバイとの優勝決定戦を制し、2年連続6度目の戴冠を果たした。まずは最初の目標を達成したのである。
 
 南米王者を決めるコパ・リベルタドーレスは、3月上旬に始まった。クラブ創設以来初の参戦で、1次リーグはアルゼンチン王者のラヌース、この大会を3度制覇しているウルグアイの古豪ナシオナル、ベネズエラ王者のスリアと同組に。1節のスリア戦(アウェー)は高い位置からプレスをかけて中盤の攻防で優位に立ち、左SBレイナウドのFKなどで2点を先行。スリアの反撃を1点に抑え2-1で勝利した。
 
 続くラヌース戦(ホーム)も先制したが、その後、中盤の攻防で劣勢を強いられ、後半に失点を重ねて敗れた(1-3)。3節のナシオナル戦(アウェー)は、やはり先制しながらもカウンターから失点して引き分け。さらに、アウェーのナシオナル戦は守備のミスが続いて完敗を喫する(0-3)。勝ち上がるには、もはや連勝するしかない崖っぷちの状況。だが5節は強豪ラヌースとのアウェーゲームとあって、1次リーグ突破は絶望的と思われた。
 
 この窮地に選手たちが奮い立つ。相手のプレスをいなし、中盤でしっかりパスを繋いで攻撃を組み立て、CFウェリントン・パウリスタが先制。PKを与えて一度は追いつかれたものの、88分、敵陣深い位置での左SBレイナウドのロングスローをCBルイス・オタビオが相手3人に競り勝って頭で叩き込み、劇的な決勝点を挙げた。シーズン前半戦のベストゲームだった。
 
 ところが試合後、予想外の事態が判明する。前節で退場となったオタビオは、3試合の出場停止処分を科せられていた。しかし、クラブがその通知を見逃していたようで、ラヌース戦のピッチに立たせてしまったのだ。これを受け、南米サッカー連盟は「3-0でラヌースの勝利」と認定。勝点3を没収されたこの時点でチームはグループ最下位に沈み、最終節のスリア戦を待たずして敗退が決まった。ただし、スリア戦に勝てば3位に浮上し、コパ・スダメリカーナに回る資格は得られるという状況だった。
 
 スリア戦は、豪雨の中で行なわれた。ショックを隠せない選手たちはミスが目立ち、先制を許す。懸命に反撃するものの、シュートはことごとくバーやポストに嫌われた。ところが、アディショナルタイムにFWカイッキがゴール前の混戦から決めて同点。冷たい雨でずぶ濡れになりながら総立ちで声援を送っていた観衆が、躍り上がって喜ぶ。さらにその直後、右サイドからの強烈なクロスをボランチのアンドレイ・ジロットが頭で合わせると、ボールはGKの指先をかすめてネットを揺すった。奇跡的な逆転勝利に、スタンドは大騒ぎとなった。
 
 この試合を地元サポーターと一緒に観戦していた筆者は、心から驚嘆した。「このような厳しい局面で“火事場の馬鹿力”を出し、信じられないようなことをやってのけるのが、シャペコエンセというクラブなのだ」と。
 
 試合後、ヴァグネル・マンシーニ監督は「困難な状況で最後まで諦めずに戦った選手たちを誇りに思う。サポーターも素晴らしかった」と感極まった表情。「南米サッカー連盟は我々から勝点を取り上げたが、ピッチの中では1次リーグを突破した」と胸を張った。
 
 監督が言うように、「ピッチ内」では2つ目の目標を達成した。それだけに、返す返すフロントの失態が悔やまれる。

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