【シャペコエンセ連載・復興への軌跡】第5回「シャペコ市民とファンのサポート」

カテゴリ:ワールド

沢田啓明

2017年08月11日

事故後に獲得した初の栄冠。

マスコットボーイとして活躍するカルリーニョスくん(中央)。そんな息子が誇らしいと胸を張るアレッサンドロ(左)は筋金入りのサポーターだ。 写真:沢田啓明

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 妻のマリアさんは、アレッサンドロと交際するまではサッカーに全く興味がなかった。だが、「彼の病気が伝染して」熱烈なサポーターの仲間入り。7年前に結婚し、長男カルリーニョスくんが生まれると、一家3人で試合観戦に出かけるようになった。
 
 あるとき、アレッサンドロは旅先でインディオが頭に被る羽根飾りを見つけた。クラブのシンボルがインディオなので、「試合で応援するときに身につけよう」と思って購入。家で息子に被らせてみたら、とても良く似合う。そこで、スタンドでもその格好で応援させていたら話題になり、クラブ関係者から「マスコットボーイになってほしい」と頼まれた。
 
 もちろん快諾。試合前に選手と一緒に入場し、ハーフタイムにもピッチに出てきて観衆に愛嬌を振りまく。いまやシャペコの街で知らない人がいない有名人だ。「息子がマスコットボーイをしているのは、父親として本当に誇らしい。シャペコのことを、もっと多くの人に知ってもらいたい」と微笑む。
 
 だが、「事故を経て、今後、シャペコエンセをどうサポートするつもりか」と尋ねると、表情が一変した。
 
「俺も妻も息子も、亡くなった選手、監督、コーチ、役員たち全員と知り合いだった。彼らがもうこの世にいないことが、今でもまだ信じなれない。とくに息子は、いつも可愛がってくれた選手たちが死んでしまって、大きなショックを受けている」
 
 そして、こう締め括った。
 
「あの事故によって、クラブへの愛情は一層強くなった。監督、選手たちはクラブのために命を捧げた。俺たちもずっと命賭けでサポートする」
 
 シャペコエンセには、サポーターグループが4つある。このうち最大のグループが「トルシーダ・ジョーベン」(ヤング・サポーターズ)だ。メンバーは約250人、若い労働者や昼間働きながら夜間大学へ通う者が多い。最も熱狂的で、最も過激な集団である。事故直後、多くの者が仕事や学校そっちのけでスタジアムに集まり、敷地の一角で寝泊りしながら、昼間はクラブ応援歌を合唱し、チャントを絶叫してサポートした。
 
 なぜそこまでやるのか?
 
「シャペが俺たちそのものだからだ。ずっと全力でサポートしてきたけど、事故で亡くなった人々に恥じないよう、これまで以上に渾身の応援を続ける」

 代表を務めるフェルナンドは、そう答えて顔を引き締めた。
 
 彼ら以外の多くの市民、サポーターからも話を聞いたが、「悲劇的な事故によって、クラブ愛がさらに深まった。今後、何があろうとクラブを応援しつづける」という気持ちは、全員に共通していた。
 
 5月初旬、シャペコエンセはサンタカタリーナ州リーグの決勝(前期と後期の優勝チームがホーム&アウェーで戦う)で宿敵アバイと対戦した。ともに敵地で1-0の勝利を収め、トータルスコアは1-1。その結果、前後期の通算成績で上回ったシャペコエンセが、2年連続6度目の優勝を果たした。事故後、初めて獲得したタイトルとあって、市内の目抜き通りは車が通過するたびにクラクションが鳴り響き、沿道では人々が大きなクラブ旗を振り回して大騒ぎ。祝祭は深夜まで続いた。
 
 前年のコパ・リベルタドーレス王者とコパ・スダメリカーナ王者が戦うレコパ・スダメリカーナ(南米スーパーカップ)の結果も、お伝えしておこう。相手はコロンビアのアトレティコ・ナシオナル。4月4日にシャペコで行なわれた第1レグは、シャペコエンセが2-1で勝利した。だが、メデジンに乗り込んだ5月10日の第2レグは失点につながるミスを連発し、1-4で大敗。トータルスコア3-5で涙を呑み、2つ目のタイトルは取り損ねた。
 
 5月13日には、ブラジル全国リーグがついに開幕。アウェーで強豪コリンチャンスと対戦したシャペコエンセは、最近の試合でミスが多かったGKとCBを入れ替え、フォーメーションも4-3-3から4-2-3-1に変更した。ヴァグネル・マンシーニ監督のこの英断が功を奏し、守備が安定。前半に先制されたものの、粘り強く戦って互角の勝負に持ち込む。56分には右からのクロスに反応したMFアルトゥール・カイッキが競り勝ってヘディングシュート。バーに当たって跳ね返ったところをCFウェリントン・パウリスタがきっちり押し込んだ。
 
 続く2節は、王者パルメイラスとのホームゲーム。個の力では明らかに見劣りするものの、豊富な運動量と溢れる闘志で対抗した。すると28分、カウンターのチャンスが訪れる。MFロッシが左サイドを突破し、そのままシュート。GKが弾いたボールをMFルイス・アントニオが詰めて先制する。その後もパルメイラスの反撃を凌ぎ切り、貴重な勝点3を手に入れた。国内屈指の強豪を相手に1勝1分け。最高のスタートを切り、2節終了時点で4位と好発進を切った。
 
 よもやの事態に見舞われたのが、南米クラブ王者の座を争うコパ・リベルタドーレスの1次リーグだ。4月末の時点で1勝1分け2敗。アルゼンチン王者ラヌースと対戦する5月17日のアウェーゲームの結果が引き分け以下なら、事実上敗退が決まる厳しい状況だった。
 
 だが、その試合で意地を見せる。前半から高い位置でプレスをかけるアグレッシブなスタイルで主導権を握り、24分に先制。79分に追いつかれたものの、試合終了間際の88分、左サイドからのスローインをCBルイス・オタビオが頭で押し込み、土壇場で勝利を手繰り寄せる。1次リーグ突破に向けて、大きく前進したかに見えた。
 
 ところが試合後、決勝点を挙げたオタビオの出場資格を巡って事態が紛糾する。前節のナシオナル(ウルグアイ)戦で一発退場を命じられ、3試合の出場停止処分を下されていたにもかかわらず、クラブがその通知を見逃していたようで、ラヌース戦に出場させてしまったのだ。これを受け、南米サッカー連盟はその試合を3-0でラヌースの勝利と認定。シャペコエンセは勝点3を没収された。
 
 それでも23日、最終節でスリア(ベネズエラ)を2-1で下してグループ3位の座を確保。コパ・スダメリカーナへ回る資格は手に入れた。
 
(第6回につづく)
 
取材・文:沢田啓明
 
※ワールドサッカーダイジェスト2017.06.15号より加筆・修正
 
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【著者プロフィール】
さわだ ひろあき/1986年にブラジル・サンパウロへ移り住み、以後、ブラジルと南米のフットボールを追い続けている。日本のフットボール専門誌、スポーツ紙、一般紙、ウェブサイトなどに寄稿しており、著書に『マラカナンの悲劇』、『情熱のブラジルサッカー』などがある。1955年、山口県出身。
 
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