こうして叱咤激励しながら厳しい練習を課すことで、控えあるいはベンチメンバーから外れた選手たちに対しても、チームにとって重要な存在であるというメッセージを与え続ける。シメオネはレギュラー、控えの垣根のないチームをめざしているのだ。
 
　アトレティコのように３つのコンペティションを戦うチームにとって、こうして選手全員のモチベーションを高め、意識を統一する作業は監督の最も重要な任務と言える。シメオネはそれを言葉だけでなく、行動で示すことで実践しているのだ。
 
「監督が志向するスタイルや戦術には、自身の選手時代のプレースタイルが色濃く反映される」
 
　そんな声をよく耳にするが、シメオネはまさにその典型だ。現役時代の彼は、闘志溢れるボックス・トゥ・ボックス型のセントラルMFだった。シメオネ・アトレティコのパワーとスピードを利したインテンシティーの高いサッカーは、まさに現役当時の彼のプレースタイルそのものだ。
 
　ちなみに、現役時代のハイライトはアトレティコとラツィオでの２冠達成。それぞれリーガ・エスパニョーラとセリエＡで第２グループだった両クラブをタイトル獲得に導いた強烈なリーダーシップが、監督としての下地となっているのは間違いない。
 
　シメオネの志向はコーチングスタッフの人選にも見て取れる。中でも有名なのは、フィジカルコーチの「プロフェ」ことオスカール・オルテガだ。シメオネとは現役時代からの付き合いで、監督に転身した2006年以降、10年近くに渡ってシメオネが指揮するチームでフィジカルコーチを務めている。
 
　この名物コーチは、選手たちのフィジカル能力を“飛行機”のように飛躍的に上昇させる手腕の持ち主として高い評価を受けており、彼が編み出した練習方法は「統合混同トレーニング」と呼ばれている。
 
　それはひと言で言えば、フィジカルとテクニックの練習をミックスさせたもの。選手たちはシメオネとこれまた熱血漢のヘルマン・ブルゴス（アシスタントコーチ）の監視の下、オルテガが独自に開発した様々なメニューに日々取り組むのだ。
 
　統合混同トレーニングのもっとも大きな特徴のひとつは、ポジション別の練習に重点を置いている点にある。例えばCBの場合は、まずスライディングタックルをさせ、その立ち上がりざまにドリブル突破に対応、さらにすぐさま８メートルほどポジションを移動させてシュートブロックをさせる。
 
　こうして試合に即したシチュエーションを作り、さらにそれを間隔を置かず連続してアクションさせることで、守備のオートマティズム、そしてタフさを身に付けさせるのだ。