「経験豊富で枯れることのない意志を見せ、試合でも練習でもモチベーターとして、リーダーとしての存在感を示してくれている」
 
　そうダルタイ監督が期待を寄せたイビシェビッチ新キャプテンの下、ヘルタは生まれ変わった姿を見せようとした。
 
　だが、DFBカップ１回戦では格下のはずの３部リーグ所属、ヤーン・レーゲンスブルクにPK戦で辛勝。まだリズムには乗れていないし、このままでは選手も吹っ切れたプレーをすることができない。
 
　そして、勝点３が絶対に必要だった、昇格組フライブルクとのブンデスリーガ開幕戦でも、終盤、絶望がヘルタ・ベンチを包み込もうとしていた。
 
　62分、原口の好パスを起点にダリダが先制点を挙げるが、アディショナルタイムの３分、CKからヘフラーにまさかの同点ゴールを献上してしまったのだ。
 
　もはや、何をやってもうまくいかないのか――。
 
　だが、選手は諦めることを拒否し、もう一度ゴールを目指した。そしてアディショナルの５分、絶望の霧が晴れた。途中出場のシーバーがフライブルクDF陣に囲まれながらも強引にシュートに持ち込むと、これが相手に当たって方向が変わり、ゴールに吸い込まれていった。
 
　ダルダイ監督はピッチに走り込み、飛び上がってのガッツポーズ！　選手、スタッフは抱き合って喜びを爆発させる。先制点のダリダは「これで解放される」とホッとした。
 
　まだ、ここから再び上昇気流に乗ることができるかは分からない。だが、少なくとも上を向いて歩くきっかけは作ることができた。
 
文：中野 吉之伴
 
【著者プロフィール】
なかの・きちのすけ／ドイツ・フライブルク在住の指導者。09年にドイツ・サッカー連盟公認のA級コーチングライセンス（UEFAのAレベルに相当）を取得。SCフライブルクでの実地研修を経て、現在はFCアウゲンのU-19（U-19の国内リーグ３部）でヘッドコーチを務める。77年７月27日生まれ、秋田県出身。