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「お前が下を見てどうするんだ?」リーグ戦で降格圏に近づいても志を曲げない川崎・鬼木達監督が問い続ける覚悟【インタビュー3】

カテゴリ:Jリーグ

本田健介(サッカーダイジェスト)

2024年09月18日

「僕がそこを見なかったら選手も目指さなくなってしまう」

苦戦を強いられているチームだがルヴァンカップではベスト4へ進出。少しずつ成果は表われている。写真:梅月智史(サッカーダイジェスト写真部)

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 もっとも、ひとつずつ積み重ねていく作業とはいえ、試合に勝てないとブレてしまいそうなものだ。それでも決して折れない心を持っているのが鬼木達という男なのだろう。

「行き着くところまで行きついたのであれば、もしかしたら、多少なりともここからどうしようという考えになったかもしれません。でも今は全然そこまで到達してないですし、選手も新しくなり、スタッフも新しくなり、怪我人も出ていた。そんな時にまだ何も植え付けられてないのに、勝ってないからっていうだけで、変えることは自分の中には選択肢としてまったくありませんでした。

 例えば手堅く戦うことを考えてみても、『いやこれは勝つ確率が上がるわけではないな』とか『これで何が積み上がるんだろう』という考えになるんです。それにこれは言い訳としてではなく、今年は少し時間をかけないと先に進められないと覚悟を決めてやってきました。僕らの仕事はもちろん時間との戦いの部分もありますが、そこをしっかりとやれば巻き返す力はあると。

 それにやっぱり今やっていることが一番勝つ確率が高いと思っていますし、あとは、選手にもよく言いますが、順位で志は変わらないということ。勝負事なので負けてしまうこともありますが、それで自分たちが目指しているものが変わるわけではない。下の順位にいても、一番上にいてもそこは変わるべきではない。一番上にいるからって、じゃあそこをキープするために違うことをするかって言ったら違いますよね。順位的に上でなくとも、志で言えば上はいくらでもある。だからこそ選手には、やるべきこと、目指すものは変わらないと言い続けています」

 人々を魅了するサッカーを追い求め、自分たちにしか決められないようなゴールを目指す。勝負に徹するのは当たり前として、志を持たなくてどうするんだ、志を手放した先に何が残るんだ。指揮官のメッセージは心の底からの叫びにも聞こえる。
 一方で「順位は気にしていない」とこれまで公の場で気丈に振る舞ってきたが、指揮官として勝てないことに悩みがないわけがない。誰よりも川崎のことを考えている男である。勝敗の責任を一身に背負い、その身体には、心には、数えきれない傷があるはずだ。それこそ私たちには想像がつかない葛藤も抱えているに違いない。それでも自問自答し、意志を貫いてきた。

「正直なところ、順位を気にしないって言ったら、そりゃ嘘にはなりますよ。ただ自分のなかで、そこを見たり、そこを気にしたら、もうそっちに行くだろうなという考えがある。自分自身がそこを気にしたらもうチームは絶対そこが基準になってしまう。だから、引っ張られたくない思いはすごく強い。現場でいったら僕が監督で、そのトップの人間が、上を見なくなった瞬間にクラブ、チームって、衰退していくと思うんです。

 それに僕が上を見なかったら選手も上を目指さなくなってしまう。チームの舵を取らなきゃいけない人間として、目指すところを絶対に下げたくないですし、そういう意味で言うと、何より自分に言い聞かせているところも強いのかもしれないですね。『お前がそこ見てどうすんだ?』と。そうやって常に自問自答しています」。

 降格しては元も子もない。そんな賛否両論の声はあるだろう。さらに現代サッカーでは、気持ちや志などより、ドラスティックに戦術や相手の対策などに力を割く傾向も強まっているように映る。時代の潮流に適応することは、勝つために大事な要素である。

 だが、サッカーは当たり前だが人間がやるスポーツである。細かい戦い方などは、チームとしての方向性、志というベースがあってこそ成り立つものである。だからこそ川崎は、「もっと効率的な戦い方がある」と周囲から揶揄されても、必要なものを取り入れながら独自の道を突き進み、これだけの成功体験を得てきた。

 実を言えば、市立船橋高、鹿島とキャリアを積んできた鬼木監督は当初、現実路線を歩む指導者でもあった。それでも「指導者としてのやりがいって結局なんなのかずっと考えていて、選手を育てる、そして勝負に徹することが一番にありますが、チームって個性が見えた方が面白くて、強くなる。それをヤヒさん(風間八宏)との出会いで知ったんです。だからヤヒさんの影響力は凄いんです」と笑顔を浮かべる。

 技術力を磨き続け、魅せるサッカーを追い求める。その意味では個人的にも見てみたい。リーグ、そしてACLで鬼木監督の覚悟が実を結ぶことを。

パート4に続く

■プロフィール
おにき・とおる/74年4月20日生まれ、千葉県出身。現役時代は鹿島や川崎でボランチとして活躍。17年に川崎の監督に就任すると悲願のリーグ制覇を達成。その後も数々のタイトルをもたらした。“オニさん”の愛称で親しまれる。

取材・文●本田健介(サッカーダイジェスト編集部)

※ACLの新フォーマット
 2024-25シーズンからAFCチャンピオンズリーグエリート(ACLE)、AFCチャンピオンズリーグ2(ACL2)、AFCチャレンジリーグ(ACGL)の3つのレベルの大会に再編。
ACLEはこれまでより少ない24クラブの出場で、グループステージは東地区、西地区それぞれ12チームに分かれ、8クラブと1試合ずつ対戦(ホーム4試合、アウェー4試合)。各地区上位8クラブがラウンド16に進出(東地区の1位対8位など各地区内の順位によって対戦相手が決定)し、ホーム&アウェーの2試合合計スコアで勝利したクラブが準々決勝へ。準々決勝から決勝は東地区と西地区が合わさったトーナメント戦で、2025年4月25日から5月4日までサウジアラビアで集中開催される予定。

 優勝クラブは賞金1000万ドル(約14億6000万円)に加え、4年に1回開催されるFIFAクラブワールドカップ(2029年大会)の出場権を獲得する。

 川崎はグループステージで蔚山(韓国/アウェー)、光州(韓国/ホーム)、上海申花(中国/アウェー)、上海海港(中国/ホーム)、ブリーラム(タイ/アウェー)、山東(中国/ホーム)、浦項(韓国/アウェー)、セントラルコースト(オーストラリア/ホーム)と対戦する。
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