天皇杯決勝へ川崎の脇坂泰斗が辿り着いた新領域。苦しみ、もがき…それでもオニさん、ケンゴさんの言葉で気付けた“自分に合わせろ”の感覚【インタビュー/前編】
カテゴリ:Jリーグ
2023年12月07日
手にした新たな感覚
チームの結果は相変わらず波があった。
しかし、4月23日の9節・浦和戦で今季のリーグ初得点を奪った脇坂のプレーは少しずつではあるが輝きを増していく。改めて優しき好青年である本人も振り返る。
「順番と言いますか。チームのことを考えるのは大事だし、必要なことです。でもまずは自分のこと。結局、導き出したのは自分のプレーをしたら、ゲーム自体も変わるということです。
だから“自分に合わせろ”くらいの感覚でやるようになりました。それはワガママとは違うんです。でもそれくらいの想いでやったほうが良いなと」
4-3-3のインサイドハーフとして味方からパスを引き出し、相手のマークを剥がしてチャンスを演出する。状況を判断して自らフィニッシュに持ち込む。
リーグ戦での個人結果を先に記せば、30試合に出場してともにチームトップの9ゴール・6アシスト。存在感は抜群だった。8位のチームながらJ1のベストイレブンに選ばれた事実も、その躍動ぶりを物語っている。
シーズンの佳境には改めて中村憲剛から嬉しい言葉も送られたという。
「『本当によくなっているよ。相手は絶対に怖いぞ』と。そのひとことはメチャクチャ嬉しかったですね。相手に怖さを与えるって攻撃に絡む選手として非常に大事だと思うんです。さすが、憲剛さん、見てくれているなと」
しかし、4月23日の9節・浦和戦で今季のリーグ初得点を奪った脇坂のプレーは少しずつではあるが輝きを増していく。改めて優しき好青年である本人も振り返る。
「順番と言いますか。チームのことを考えるのは大事だし、必要なことです。でもまずは自分のこと。結局、導き出したのは自分のプレーをしたら、ゲーム自体も変わるということです。
だから“自分に合わせろ”くらいの感覚でやるようになりました。それはワガママとは違うんです。でもそれくらいの想いでやったほうが良いなと」
4-3-3のインサイドハーフとして味方からパスを引き出し、相手のマークを剥がしてチャンスを演出する。状況を判断して自らフィニッシュに持ち込む。
リーグ戦での個人結果を先に記せば、30試合に出場してともにチームトップの9ゴール・6アシスト。存在感は抜群だった。8位のチームながらJ1のベストイレブンに選ばれた事実も、その躍動ぶりを物語っている。
シーズンの佳境には改めて中村憲剛から嬉しい言葉も送られたという。
「『本当によくなっているよ。相手は絶対に怖いぞ』と。そのひとことはメチャクチャ嬉しかったですね。相手に怖さを与えるって攻撃に絡む選手として非常に大事だと思うんです。さすが、憲剛さん、見てくれているなと」
まさに選手として大きな階段を登ったと言えるのだろう。今は新たな感覚も手にしているようだ。
「手応えはすごくあります。ただ同時に、より上を見る回数が増えたと言いますか、表現が難しいのですが、以前までは自分のプレーを反省することを、今ももちろんしていますが、もっと成長した自分をイメージできるようになりました。もっと成長したい、もっと上手くなりたいという想いはさらに高まっています。
(プレー向上の要因は)ひとつは余裕が持てるようになったのは大きいと感じます。今は相手や味方を思うように動かせていると言いますか、例えばターンして逆を取ったシーンも『そうだよね、こうできるよね』と前もって“分かる”ようになっている。相手は『やられた』と思っているかもしれませんが、自分では誘っているくらいの感覚で。ポジションについた時点で、未来が分かっているという時もあるほどです。相手が取りに来た時に『よしよし、やっぱりこっちに取りにきたから、じゃあこっちにいく』みたいな。
もちろん相手のほうが上手で、奪われることもあります。そういう時に昔だったら、『うわ...』って落ち込んじゃいましたが、今は語弊があるかもしれませんが、嬉しい。『こういう風にボールを奪いにくるやり方があるんだ』と勉強になって、改善点が浮かんでくる。そういう思考にも余裕が出てきたのかなと」
まさに好循環である。成功体験が積み重なり、失敗をも力に変えていく。
「自信って、練習からくるものと、ゲームで掴めるものがあって、さらに言うなら、ふたつに分けられると思うんです。
『努力を続けて得ていく自信』と、『こういうプレーができたと急に加速する自信』。最近は後者の方が増えているのかな。例えば前半で数的不利になった(23節の)神戸戦。僕があまりしないようなドリブルで局面を打開できたんです。それは、これまではドリブルをあまり選択しなかったという面もあり、でも10人だったからこそ自分で相手を1、2枚を剥がさなくてはいけない状況に置かれたという背景もありました。
そうやって試合でできたこと、できなかったことを成長材料につなげていく。練習でやったものしかゲームでは出せないと思いますが、その逆もあって、ゲームで出たものを練習に持ち帰って磨く。そうした作業を増やせているのは、自分自身にフォーカスしているからこそで、プレーの幅は確実に増えています。
それに失敗も大事で、失敗したプレーに対しては、より注意深くなる。同じようなシーンがきたら、相手からより距離を取るだとか、角度を変えるだとか。そうやって頭を整理できているのも大きいです」
脇坂は自分が出場した試合を必ず90分を通して見返し、さらに自らのプレーを切り取った映像も欠かすことなくチェックしている。
トレーニングに試合での気付きを落とし込み、自主練では止める・蹴るの反復も決して怠らない。
「コツコツ成長してきた人間なので」
今季の序盤戦のように雌伏の時は短くなかった。それでもすべてがつながっている。これからも多くの壁にぶつかり、心が折れそうになる時だってあるのだろう。
それこそ「チームを勝たせられる存在になりたい」と常々語る男である。今季のリーグ8位という成績には忸怩たる想いを抱えているに違いない。
それでも断言できる。今の脇坂泰斗は“史上最高”だと。昨年10月には愛娘も誕生し新たなパワーも手にしている。
そしてその輝かしいプレーを見せる舞台が、12月9日の天皇杯決勝で待っているのだ。彼のプレーにぜひとも注目してもらいたい。サッカーの楽しさを再確認できるはずである。
取材・文●本田健介(サッカーダイジェスト編集部)
※「後編」に続く。
「手応えはすごくあります。ただ同時に、より上を見る回数が増えたと言いますか、表現が難しいのですが、以前までは自分のプレーを反省することを、今ももちろんしていますが、もっと成長した自分をイメージできるようになりました。もっと成長したい、もっと上手くなりたいという想いはさらに高まっています。
(プレー向上の要因は)ひとつは余裕が持てるようになったのは大きいと感じます。今は相手や味方を思うように動かせていると言いますか、例えばターンして逆を取ったシーンも『そうだよね、こうできるよね』と前もって“分かる”ようになっている。相手は『やられた』と思っているかもしれませんが、自分では誘っているくらいの感覚で。ポジションについた時点で、未来が分かっているという時もあるほどです。相手が取りに来た時に『よしよし、やっぱりこっちに取りにきたから、じゃあこっちにいく』みたいな。
もちろん相手のほうが上手で、奪われることもあります。そういう時に昔だったら、『うわ...』って落ち込んじゃいましたが、今は語弊があるかもしれませんが、嬉しい。『こういう風にボールを奪いにくるやり方があるんだ』と勉強になって、改善点が浮かんでくる。そういう思考にも余裕が出てきたのかなと」
まさに好循環である。成功体験が積み重なり、失敗をも力に変えていく。
「自信って、練習からくるものと、ゲームで掴めるものがあって、さらに言うなら、ふたつに分けられると思うんです。
『努力を続けて得ていく自信』と、『こういうプレーができたと急に加速する自信』。最近は後者の方が増えているのかな。例えば前半で数的不利になった(23節の)神戸戦。僕があまりしないようなドリブルで局面を打開できたんです。それは、これまではドリブルをあまり選択しなかったという面もあり、でも10人だったからこそ自分で相手を1、2枚を剥がさなくてはいけない状況に置かれたという背景もありました。
そうやって試合でできたこと、できなかったことを成長材料につなげていく。練習でやったものしかゲームでは出せないと思いますが、その逆もあって、ゲームで出たものを練習に持ち帰って磨く。そうした作業を増やせているのは、自分自身にフォーカスしているからこそで、プレーの幅は確実に増えています。
それに失敗も大事で、失敗したプレーに対しては、より注意深くなる。同じようなシーンがきたら、相手からより距離を取るだとか、角度を変えるだとか。そうやって頭を整理できているのも大きいです」
脇坂は自分が出場した試合を必ず90分を通して見返し、さらに自らのプレーを切り取った映像も欠かすことなくチェックしている。
トレーニングに試合での気付きを落とし込み、自主練では止める・蹴るの反復も決して怠らない。
「コツコツ成長してきた人間なので」
今季の序盤戦のように雌伏の時は短くなかった。それでもすべてがつながっている。これからも多くの壁にぶつかり、心が折れそうになる時だってあるのだろう。
それこそ「チームを勝たせられる存在になりたい」と常々語る男である。今季のリーグ8位という成績には忸怩たる想いを抱えているに違いない。
それでも断言できる。今の脇坂泰斗は“史上最高”だと。昨年10月には愛娘も誕生し新たなパワーも手にしている。
そしてその輝かしいプレーを見せる舞台が、12月9日の天皇杯決勝で待っているのだ。彼のプレーにぜひとも注目してもらいたい。サッカーの楽しさを再確認できるはずである。
取材・文●本田健介(サッカーダイジェスト編集部)
※「後編」に続く。