【連載】小宮良之の『日本サッカー兵法書』 其の六十「アドレナリンの危険な罠」

カテゴリ:連載・コラム

小宮良之

2016年03月04日

「イケイケ」だけで世界のトップに立ったチームなど存在しない。

初戦で躓いたFC東京の、今後の歩みに要注目だ。写真は3-1で勝利したACL2戦目のビン・ズオン戦。 写真:茂木あきら(サッカーダイジェスト写真部)

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 アドレナリンは選手を麻痺させるだけでなく、見る者の目をも欺く。
 
 例えば、FC東京がAFCチャンピオンズ・リーグ(ACL)のプレーオフでチョンブリを大量得点で下した時も、浮き足立つような感じを覚えた。
 
 選手は万全の準備をし、士気を高め、相手をねじ伏せた。スコアだけ見れば、文句のつけられないゲームだった。しかし、ビルドアップの部分では、幾つかの致命的なミスを犯していた。敵が弱いことで、そこにつけ込まれなかったにすぎない。
 
 ゴールラッシュを生み出した攻撃は果敢さに満ちていた。積極的なのは、悪いことではない。しかし同時に、雑な部分も目についた。レベルの高い相手なら、崩しきれず、シュートもネットを揺らしていなかったであろうと思われる場面もあった。
 
 そんなFC東京がACL、Jリーグ開幕戦を落としたことは、驚きではない。アドレナリンを出した後、選手はどうしても消耗し、疲弊するものだ。“クスリ”が切れた状態も同然である。分泌物が出なくなると、途端にミスばかりが目立つのだ。
 
 フットボールにおいて、「アグレッシブに」というのは、ひとつの考え方として正しい。アドレナリンをどう出すか――それは大事なポイントのひとつだろう。
 
 しかし、知性的に試合を見切り、コントロールするということも忘れてはならない。なぜなら、「イケイケ」だけで世界のトップに立ったチームなど、ひとつもないからだ。90分間をマネジメントできる冷静さと、確実なプレースキルこそが、長い目で見ても重要なことだ。
 
 アドレナリン。
 
 それはしばしば、毒薬にもなる。
 
文:小宮 良之(スポーツライター)
 
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。01年にバルセロナへ渡りライターに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写。近著に『おれは最後に笑う』(東邦出版)。
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