想像を超えたプレーを“リスペクトの欠如”に繋げるべきではない。
とはいえ、議論のほとんどはモラルに関するもの。このゴールが勝敗の行方がほぼ決まっていた試合終盤、バルサの4点目の場面で起きたからだろう。
選手を含む関係者とそのファンが、自分のチームがこんなPKを決められるのを目の当たりにし、悔しさから何かを言いたくなる気持ちも分からないではない。セルタは非常に良いパフォーマンスを見せており、スアレスの2点目(75分)が入るまでは引き分けも可能ではと思わせる内容だった。
ただ、このPKに関しては、あくまでも素直に賞賛すべきだ。
美しいプレー、見る者の想像の範疇を超えるプレーを、“リスペクトの欠如”という議論に繋げるべきではない。いちいちケチをつけていれば、サッカーというスポーツにおけるあらゆる美技に疑問符が付けられることになる。
アンドレア・ピルロのクッキアイオ(チップキックのPK)も、ジネディーヌ・ジダンのルーレットも、ロナウジーニョのノールックパスも、あるいはこの日ネイマールが見せたヒールリフトも、その場面で無難なプレーをしようと思えば、彼らは簡単にできる。
しかし、そんな中であえて優先する冒険心と遊び心。浴びせるべきは喝采であり、決して批判ではない。スコアが0-0であろうと、4-1であろうと、ライバル意識もプライドもひとまず脇に置いておいて、ここは素直に拍手を送るべきだろう。
その意味で、セルタはまさに“グッドルーザー”だった。彼らだって悔しいに違いない。しかし、エドゥアルド・ベリッソ監督が「馬鹿にされたと思うか? いや、思わない。あの3人はリスペクトを持っているから」と語れば、DFのグスタボ・カブラルも「悔しい。でもそれはゴールを決められたから。あれはもちろん正当なゴールだ」とコメントしている。
1982年にクライフが決めたPKの記憶――。30年以上経った今、メッシはひとつのPKでそれを呼び起こして、アップデートし、「2016年のサッカーにもスペクタクルのための場所はある」ということを世界に示した。それだけで、価値があることだと思う。
文:豊福晋
【著者プロフィール】
豊福晋/1979年、福岡県生まれ。2001年のミラノ留学を経て、フリーで取材・執筆活動を開始。イタリア、スコットランドと拠点を移し、09年夏からはスペインのバルセロナに在住。リーガ・エスパニョーラを中心に、4か国語を操る語学力を活かして欧州フットボールシーンを幅広く、ディープに掘り下げている。独自の視点から紡ぐ、軽妙でいて深みのある筆致に定評がある。
選手を含む関係者とそのファンが、自分のチームがこんなPKを決められるのを目の当たりにし、悔しさから何かを言いたくなる気持ちも分からないではない。セルタは非常に良いパフォーマンスを見せており、スアレスの2点目(75分)が入るまでは引き分けも可能ではと思わせる内容だった。
ただ、このPKに関しては、あくまでも素直に賞賛すべきだ。
美しいプレー、見る者の想像の範疇を超えるプレーを、“リスペクトの欠如”という議論に繋げるべきではない。いちいちケチをつけていれば、サッカーというスポーツにおけるあらゆる美技に疑問符が付けられることになる。
アンドレア・ピルロのクッキアイオ(チップキックのPK)も、ジネディーヌ・ジダンのルーレットも、ロナウジーニョのノールックパスも、あるいはこの日ネイマールが見せたヒールリフトも、その場面で無難なプレーをしようと思えば、彼らは簡単にできる。
しかし、そんな中であえて優先する冒険心と遊び心。浴びせるべきは喝采であり、決して批判ではない。スコアが0-0であろうと、4-1であろうと、ライバル意識もプライドもひとまず脇に置いておいて、ここは素直に拍手を送るべきだろう。
その意味で、セルタはまさに“グッドルーザー”だった。彼らだって悔しいに違いない。しかし、エドゥアルド・ベリッソ監督が「馬鹿にされたと思うか? いや、思わない。あの3人はリスペクトを持っているから」と語れば、DFのグスタボ・カブラルも「悔しい。でもそれはゴールを決められたから。あれはもちろん正当なゴールだ」とコメントしている。
1982年にクライフが決めたPKの記憶――。30年以上経った今、メッシはひとつのPKでそれを呼び起こして、アップデートし、「2016年のサッカーにもスペクタクルのための場所はある」ということを世界に示した。それだけで、価値があることだと思う。
文:豊福晋
【著者プロフィール】
豊福晋/1979年、福岡県生まれ。2001年のミラノ留学を経て、フリーで取材・執筆活動を開始。イタリア、スコットランドと拠点を移し、09年夏からはスペインのバルセロナに在住。リーガ・エスパニョーラを中心に、4か国語を操る語学力を活かして欧州フットボールシーンを幅広く、ディープに掘り下げている。独自の視点から紡ぐ、軽妙でいて深みのある筆致に定評がある。