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【連載】小宮良之の『日本サッカー兵法書』 其の五十五「実は日本人には“守り抜く”より“攻め抜く”が向いている」

カテゴリ:連載・コラム

小宮良之

2016年01月28日

日本人にイタリア人のような心身ともにふてぶてしい守備はできない。

2013年のコンフェデレーションズ・カップで日本代表は、イタリア代表に真っ向勝負を挑んだ。最終的には3-4で敗れたが、内容は素晴らしく、メディアや国民からもこの「美しく散る」には賞賛の声が。(C)Getty Images

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 現代フットボールの要塞戦術において、守るという行為で重視されてきたのは、重厚性よりも流動性である。虚を突いて出撃し、敵を脅かす。俊敏な運動が相手を苦しめる。常に遊撃できるような部隊、その部隊と連動できる拠点によって、ようやく守りも優位に動かせる。遊撃部隊は敵の拠点を一気に衝くのが使命で、戦理を心得、戦機を洞察し、勇気を持って懐に飛び込めるか。ここは攻撃性能を求めるべきだろう。アタッカーに強く防御を求めるのは、「失点を減らしたい」という指揮官の怯みにすぎず、それは敵よりも味方に損傷を与える。
 
 翻って、日本は世界でトップ50前後のサッカー国である。すなわち、強国との試合では、守ることを念頭に考えざるをえない。しかし、守りきる、という考え方は捨てるべきだろう。守りながらも攻撃装置を持てるか――。
 
 2010年の南アフリカ・ワールドカップで岡田武史監督が用いた戦術布陣は4-1-2-3で、3トップ以外の7人は専守防衛に近く、コンセプトとしてはバルサ戦のデポルティボのそれに近かった。松井大輔、大久保嘉人、本田圭佑の3トップは守備の負担を担いつつ、遊撃性も託されていた。強力な3人のアタッカーが敵の喉元で刃になり、“やられっぱなし”にはならなかったのだ。
 
「サッカーとしては面白いことはなにもなかったよ」
 
 大久保が後述しているように、それは勝つための手段だった。フットボールの原点であるボールゲームを放棄し、パスを繋げながらテンポを作り、攻守を組み立てるという考え方はない。守るために攻め、攻めるために守る、という勝利だけを目指す戦闘部隊に近いだろう。
 
 しかし実は、日本人はその割り切った戦い方を得意としていない。むしろ攻め抜く戦いに、自分たちのアイデンティティーを求める。2013年のコンフェデレーションズ・カップで、イタリアと撃ち合って3-4で負けた一戦に“美しさ”を感じたように、だ。イタリア人のようにふてぶてしく守りながら、とはいえ気持ちまでは守りに入らず、逆襲で勝ちをつかみ取るという、アンビバレントな戦いには向かない。
 
 岡田監督がマゾヒスティックな戦術を成功させたのも、本大会直前の土壇場で、ワールドカップを勝ち抜くために切り替えざるをえなかったからだろう。
 
「縦に速く」を唱えるヴァイッド・ハリルホジッチ監督の戦略構想は珍しいことではない。その言説は正論だろう。ただ、「4年間も割り切った戦いを見せられる」と想像すると、人々は幻滅を覚える。そこに、指揮官の仕事の難しさはある。
 
文:小宮良之
 
【著者プロフィール】
小宮良之(こみや・よしゆき)/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『おれは最後に笑う』(東邦出版)など多数の書籍を出版しており、2016年2月にはヘスス・スアレス氏との共著『「戦術」への挑戦状 フットボールなで斬り論』(東邦出版)を上梓する。
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