【連載】小宮良之の『日本サッカー兵法書』 其の五十二「禁じ手は、使いよう」

カテゴリ:特集

小宮良之

2016年01月07日

ルールのフェアとアンフェアの境目は、あくまでグレーゾーン。

CLのユベントス戦でヘディング弾を決めたジョレンテ。高さだけでなく、巧みな“手の使い方”があってこそのゴールだった。(C)Reuters/AFLO

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 一例を挙げよう。
 
 今季のチャンピオンズ・リーグのグループリーグ最終節では、セビージャが強豪ユベントスと一戦を交えた。セビージャのCF、フェルナンド・ジョレンテは古巣相手にヘディングで決勝点を記録しているが、その駆け引きは巧妙だった。ジョレンテは身長195センチと大柄で、もともと体格差を活かしての空中戦は弱くはないが、それよりもポジション取りで相手に勝っていた。
 
 ジョレンテはスペインの北、バスク地方にあるアスレティック・ビルバオ伝統の“手押し”によるポジション取りを見せている。
 
 審判は、突き飛ばす、引っ張る、叩くという行為には躊躇なく笛を吹く。しかしながら、選手が前方に向かって、相手を手で押しながらポジションに入っていく行動に対しては反則を取りづらい。プレーに関与する行動は妨げるべきではない、という意識が働くからだ。バスク人FWはその心理を利用する。大柄なCFが多いビルバオでは、マーカーを強く手で押しながら一瞬自分の前を空け、ヘディングする。その技術を、彼らは幼少期から高めているのだ。
 
 ユーベ戦、ジョレンテは伝統の技を披露した。もちろん、ヘディング自体もコースを狙った当て方をしており、力と技の融合だった。これには、名手ジャン・ルイジ・ブッフォンもノーチャンス。しかし、ジョレンテが手を使った準備でポジションを勝ち得ていなかったら、そのヘディングもなかっただろう。
 
<手や腕は使ってはいけない>
 
 これはフットボールの大原則で、すべてのフィールドプレーヤーが守らなくてはいけない。しかし、ルールのフェアとアンフェアの境目はあくまでグレーゾーン。そこを相手にいいようにされてしまったら、勝利は覚束ない。
 
 禁じ手は使いよう、ということになる。
 
 
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。01年にバルセロナへ渡りライターに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写。近著に『おれは最後に笑う』(東邦出版)。
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