実際に今回の兵庫県予選でも、初戦から決勝まで同じスタメンが１度もなく、大会途中の部内リーグでアピールした選手が次々とトップチームに引き上げられ、最終的には22名の選手たちがピッチに立った。

　それだけに毎週明けに行なわれる「淡路プレミアリーグ」の各試合は真剣そのもので、終了後に負けて泣き崩れる選手も出るあたりは、インターハイ兵庫県決勝後のシーンと酷似しているという。

　多くの大量部員を抱える強豪校では、ABCなどと指導者が決めた実力順のチームが複数存在し、トップチームまで上り詰めなければ公式戦には出場できない。一方で松木玖生（青森山田→FC東京）のように１年生で全国選手権決勝の舞台に立てても、３年連続して同じ舞台に登場することになる。

　それに対し相生学院の場合は、部内のリーグ戦を構成するチームには序列がないので、目の前の試合で活躍すれば学年や実績に関係なくトップチームへのチャンスが開けていく。裏返せば、毎試合が気の抜けない競争になり、さらに在学中でもプロから声がかかれば「いつでもウチを出て行ってください」（上船監督）という方針を貫いている。

　一人ひとりが毎日のトレーニングに全力で取り組む蓄積があるから「成長も速い」と同監督も目を細める。概して日本では、厳しいサバイバルを経験する高体連の選手たちのほうが逞しく育つと考えられがちだ。
 

　しかし従来の強豪校の大所帯では、CチームからAチームへの抜擢は現実的ではなく、細かな逆転現象も目に留まり難い。その点で、どんな下剋上も日常茶飯事の相生学院の環境はプロに近い。予選終盤には部内リーグ戦でアピールした１年生が準決勝からの２試合でプレーした。それはまさに個々が適した環境を与えられ、特徴を意識して成長できれば、さらに面白い人材が芽を出してくる可能性を示唆している。

　また通信制の相生学院は、コンスタントに転入生も受け入れている。新天地に移って来たことで、プロへの道を切り拓いた選手もいる。全国各地の強豪校では、多感な時期の選手たちが次々に大所帯に吸い寄せられていくので、環境に馴染めない選手たちも数知れない。

　ところが依然として高体連には、転校をしたら６か月間も公式戦に出場できないというルールが存在する。この旧態依然とした規則があるから、実際に入部をしてみて心に傷を負った選手でも、適正チームへの移籍（転校）を躊躇し、あるいはブランクが長引き熱意が薄れていく選手も出てくる。

　JFAは2050年までにワールドカップ優勝の目標を掲げている。だが世界一は闇雲に唱えても手に入るものではなく、それに相応しい環境整備が必要だ。