【連載】小宮良之の『日本サッカー兵法書』 其の五十「育成型という嘘」

カテゴリ:特集

小宮良之

2015年12月24日

ベテランには、爆発的な成長や躍進は望めないかもしれないが…。

ベテランの中澤は今季も落ち着いたプレーを見せ、横浜の堅守に貢献。体力的な衰えは否めないが、ピッチ内外で果たす役割は大きい。写真:サッカーダイジェスト写真部

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 今シーズン、Jリーグで上位に付けたクラブは、今も黒い目を光らせるベテラン選手を擁している。広島の佐藤寿人、G大阪の遠藤保仁、浦和の阿部勇樹、鹿島の小笠原満男らは求心力があり、模範となるだけでなく、緊張も与えられる。そうした先輩のおかげで、浅野拓磨、宇佐美貴史、関根貴大、柴崎岳らの台頭が促進された部分もあるだろう。
 
 なによりプレー経験豊富な選手は、チームのなかで天秤の支点となり得る。左が傾いたなら右を重くして釣り合いを取り、戦いの機微を知っている。長いシーズンにおいて、チームはバランスを崩しかけそうになる場面がいくらでもあるが、ベテラン選手はそこで乱れを調整する力を持つ。落下しそうになるチームを、下支えできるのだ。
 
 例えば、横浜の中澤佑二は2010年の南アフリカ・ワールドカップ時に比べれば明らかに体力的には衰えているが、要所での働きにおいて他の追随を許さない。敵のスピードや技量を、戦うなかで封じ込められるだけの眼識がある。2015年も、彼の落ち着きが横浜の最終ラインにもたらすものは大きかった。リーグ2番目に少ない失点で、相棒になったブラジル人CBファビオの成長を促している。
 
 ベテランには、爆発的な成長や躍進は望めないかもしれない。それを実現するのが若手ということだろう。しかし、この関係を成立させるためにはベテランと若手、お互いのコミュニケーションがなにより不可欠だ。
 
 ともあれ、「育成型のチームに!」との号令が出た時には、入念な点検が必要である。
   
 
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。01年にバルセロナへ渡りライターに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写。近著に『おれは最後に笑う』(東邦出版)。
 
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