プレッシングがハマった際の破壊力は、リーグ随一だった“ポポヴィッチ・ゼルビア”。 ボールを奪えるチャンスでは傘に掛かってプレッシングを仕掛け、ボールをハントする。 そうした大枠をポポヴィッチ監督が提示し、そこにディテールの方法論を植え付けたのが米山コーチだ。その点で言えば、現代サッカーに必要な素養を植え付けられる指導者と言えるだろう。

　もっとも、米山が来季指揮するチームのカテゴリーはJ３。昨季までの戦場だったJ２以上に、選手自身の戦術理解度やプレーのスキルはどうしても見劣りする。クオリティの壁にぶち当たることもあるだろう。想定される困難の打開策について、米山は「まずはすべてを求めないことから始めていく」と話し、こう言葉を続けた。

「良い守備から良い攻撃につなげていくチームを構築することからスタートしたい。そし て、簡単に負けないチームから、最終的にはポゼッションも選べるチームを作りたい」 

　一つずつステップを踏み、選手たちの反応も見極めながら、次第にマイナーチェンジを施していく。主戦システムも、好みである４バックをベースに考えているが、“システムありき”ではなく、あくまでも“選手ありき”で最適解を導き出す腹積もりだ。

　偶然にも、同じタイミングかつ、同一カテゴリーで桐蔭学園高の１学年後輩、戸田和幸もSC相模原の新監督に就任した。また2016年のS級ライセンス取得同期という意味では、 アスルクラロ沼津の中山雅史新監督も同じ釡の飯を食べた仲だ。

　２人はワールドカップにも出場し、代表１キャップの米山は現役時代の実績では遠く及ばない。それでも、監督という立場での現状はフラットな力関係だ。

「良い意味で刺激をし合って、競い合っていけるし、絶対に負けたくない」。そう思える“ライバル”がいることも、米山の闘志をかき立てる。  
 

　米山自身にとってのアドバンテージの１つは、現役時代も含め、多くの監督のもとで学んできたことだろう。

　高校時代は「ディテールの重要性」を教えられた李国秀氏の指導を受け、現役時代は名古屋をJリーグ初優勝に導いたストイコビッチ監督のもと、カリスマ性でチーム力を引き上げるという、別世界のチームビルディングを体感した。指導者に転身以降は、鬼木達監督に仕えながら、川崎の初タイトル獲得の景色にたどり着いている。 

　影響を受けた指導者たちの“良いとこ取り”で自分流のエッセンスも配合しながら、讃岐では「骨太なチーム」を構築する――。おぼろげながら頭の中で描いているチーム作りの青写真はこうだ。

「高い強度は大前提として、讃岐のプレーモデルを確立し、その骨格に選手たちの個性で肉付けをしていく。そんな骨格の太いチームは強いと思っているので、我々もそこを目ざしていきたい」 

　今季J３を制した、いわきの指揮官は、かつて相馬直樹監督のもと、町田でヘッドコーチを務めた村主博正監督。町田のコーチからJ３監督就任は“出世コース”となるのか。その後に続く新鋭監督として、米山新監督は動向を注視すべき存在だ。

文●郡司 聡（スポーツライター）

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