レフェリーに必要な「強さ」と「エンパシー」
――色々な駆け引きというのは、たとえば審判員に見えないボールとは無関係な所でのファウル行為や、逆にファウル行為を受けていないのに何かがあったようなアピールをする等でしょうか?
「そうですね。高校生の試合だと審判員側のミスに対してベンチからの声はあっても、選手から強いプレッシャーはありません。ただ、大人の試合になると、ご質問にあったような駆け引きも出てきます。そうなると、『何か間違っていたのかな?』『自分が気付いていない所で何があったのかな?』といった疑心暗鬼になり、ネガティブな思考が止まらなくなってしまうんですよね。
もうひとつ二級審判員には難しさがあります。人数でいえば、四級審判員が一番多くて、級が上がると共に人数も少なくなっていきます。その中で二級審判員は、級の中の担当する試合のレベルの幅や経験の差が一番大きいと思います。将来を期待されて三級審判員から二級審判員になった経験の少ない審判員も、大人の試合を担当することがあります。たとえば、いま南葛SCは関東1部ですが、多くの元日本代表選手の方々がプレーされています。二級審判員になったばかりで、南葛SC戦を担当したら、経験したことのないレベルの高さに驚くでしょう。
また二級審判員は、都道府県をこえて、地域サッカー協会が主催する割り当てを受けるので、プリンスリーグなど将来を嘱望された選手たちと触れ合います。彼らは今後の日本サッカーを支えていく金の卵ですから、ファウルなのか、フットボールコンタクトなのかの見極めに高いレベルを求められます。二級審判員の方々というのは、審判界においても非常に大変であり、重要でもあります」
――二級審判員の方々に国際審判員という立場から、どのようなアドバイスがありますか?
「まだまだ未熟な私が言うのも憚られますが、『最後は自分が決める』という『幹となる強い信念を持つ』こと。そして、試合を色々な人に見て貰うことも大事です。普段から指導を受けているアセッサーや指導者はもちろん、レフェリーの先輩、それこそPRが見に来たらプロの言葉の重みとかを感じられるかもしれません。
ただ、審判だけの世界で完結しないことも大事です。公式戦では難しいでしょうが、練習試合なら、監督の方とコミュニケーションをとることも良いと思います。私の場合は原さん、倉又寿雄(当時:FC東京ヘッドコーチ)さん、長澤徹(当時:FC東京コーチ)さんと話をさせて頂いて色々なことを学ぶことができました。今思えば必要な経験でした」
「そうですね。高校生の試合だと審判員側のミスに対してベンチからの声はあっても、選手から強いプレッシャーはありません。ただ、大人の試合になると、ご質問にあったような駆け引きも出てきます。そうなると、『何か間違っていたのかな?』『自分が気付いていない所で何があったのかな?』といった疑心暗鬼になり、ネガティブな思考が止まらなくなってしまうんですよね。
もうひとつ二級審判員には難しさがあります。人数でいえば、四級審判員が一番多くて、級が上がると共に人数も少なくなっていきます。その中で二級審判員は、級の中の担当する試合のレベルの幅や経験の差が一番大きいと思います。将来を期待されて三級審判員から二級審判員になった経験の少ない審判員も、大人の試合を担当することがあります。たとえば、いま南葛SCは関東1部ですが、多くの元日本代表選手の方々がプレーされています。二級審判員になったばかりで、南葛SC戦を担当したら、経験したことのないレベルの高さに驚くでしょう。
また二級審判員は、都道府県をこえて、地域サッカー協会が主催する割り当てを受けるので、プリンスリーグなど将来を嘱望された選手たちと触れ合います。彼らは今後の日本サッカーを支えていく金の卵ですから、ファウルなのか、フットボールコンタクトなのかの見極めに高いレベルを求められます。二級審判員の方々というのは、審判界においても非常に大変であり、重要でもあります」
――二級審判員の方々に国際審判員という立場から、どのようなアドバイスがありますか?
「まだまだ未熟な私が言うのも憚られますが、『最後は自分が決める』という『幹となる強い信念を持つ』こと。そして、試合を色々な人に見て貰うことも大事です。普段から指導を受けているアセッサーや指導者はもちろん、レフェリーの先輩、それこそPRが見に来たらプロの言葉の重みとかを感じられるかもしれません。
ただ、審判だけの世界で完結しないことも大事です。公式戦では難しいでしょうが、練習試合なら、監督の方とコミュニケーションをとることも良いと思います。私の場合は原さん、倉又寿雄(当時:FC東京ヘッドコーチ)さん、長澤徹(当時:FC東京コーチ)さんと話をさせて頂いて色々なことを学ぶことができました。今思えば必要な経験でした」
――その後一級審判員になり、Jリーグ担当審判員を目指す道がスタートします。順調に進みましたか?
「いえ、実は私は結果的に、JFLからJ2に上がるのが半年遅れました。全国地域サッカーチャンピオンズリーグ2006年でのレフェリングが最終的な見極めとなったのですが、その年はJリーグを目指す4チーム、TDK (現:ブラウブリッツ秋田)、FC岐阜、ファジアーノ岡山、V・ファーレン長崎の中から1チームのみが自動昇格という壮絶なリーグ戦でした。この時期はJリーグ担当審判員の世代交代の時期でもあり、佐藤(隆治:現国際主審)さん、河合(英治:元J2主審)さん、井上(知大:現J1主審)さん、唐紙(学志:現国際副審)さんらは見事にパスして、J2担当審判員になったのですが、私はパフォーマンスが悪くて一緒に上がれませんでした。それは自身のレフェリングを振り返るきっかけになりました。
その前年までインストラクターだったモットラムさんの名残もあって、JFA審判委員会がレフェリーに『強さ』を求めていたのだと思います。私は、そういった強い対応が出来ておらず、プロに近い選手たちがいる試合を担当したので、合格ラインに到達しなかったのかもしれません」
――私も当時、編集部員としてモットラム氏の原稿を手掛けたことがあるので『強さ』というのを非常に覚えています。一方で、近年は『強さ』よりも『エンパシー(相手の立場で考えや想いを理解すること)』が求められていると思うのですが、当時と今の指導の違いは感じますか?
「レフェリーには『強さ』が必要というのは変わらないですし、今の方が『強さ』は必要だと思います。たとえば、『エンパシー』も『強さ』がないと『空気に呑まれる』ようになってしまう。それは『エンパシー』ではありません。
私はモットラムさんの指導を受けていませんが、その『強さ』を全面に出すことが求められているのかな? とは感じました。ただ、そうやって型にはめて、レフェリーに必要な『強さ』をまず作るのが、日本人には合っていたのかなとも思います。
2017年にレイさん(筆者注:レイモンド・オリヴィエ。イングランドのプレミアリーグやフットボールリーグ等の審判に関する独立組織PGMOLインストラクター)がJFAに指導に来られて、『フットボールとは?』という哲学的な部分から、様々なことを学びました。レフェリーにあるグレーな部分を私たちが任されていますし、任される責任もある。それは凄く成長できるチャンスで、フットボールの喜びもある。その反面で悩みも増えました。ということは根底に『強さ』は必要ですよね。『強さ』がないと、プレッシャーに呑まれてグレーな部分をホームとアウェイで忖度してしまうかもしれません。それは絶対にやってはいけないことです」
「いえ、実は私は結果的に、JFLからJ2に上がるのが半年遅れました。全国地域サッカーチャンピオンズリーグ2006年でのレフェリングが最終的な見極めとなったのですが、その年はJリーグを目指す4チーム、TDK (現:ブラウブリッツ秋田)、FC岐阜、ファジアーノ岡山、V・ファーレン長崎の中から1チームのみが自動昇格という壮絶なリーグ戦でした。この時期はJリーグ担当審判員の世代交代の時期でもあり、佐藤(隆治:現国際主審)さん、河合(英治:元J2主審)さん、井上(知大:現J1主審)さん、唐紙(学志:現国際副審)さんらは見事にパスして、J2担当審判員になったのですが、私はパフォーマンスが悪くて一緒に上がれませんでした。それは自身のレフェリングを振り返るきっかけになりました。
その前年までインストラクターだったモットラムさんの名残もあって、JFA審判委員会がレフェリーに『強さ』を求めていたのだと思います。私は、そういった強い対応が出来ておらず、プロに近い選手たちがいる試合を担当したので、合格ラインに到達しなかったのかもしれません」
――私も当時、編集部員としてモットラム氏の原稿を手掛けたことがあるので『強さ』というのを非常に覚えています。一方で、近年は『強さ』よりも『エンパシー(相手の立場で考えや想いを理解すること)』が求められていると思うのですが、当時と今の指導の違いは感じますか?
「レフェリーには『強さ』が必要というのは変わらないですし、今の方が『強さ』は必要だと思います。たとえば、『エンパシー』も『強さ』がないと『空気に呑まれる』ようになってしまう。それは『エンパシー』ではありません。
私はモットラムさんの指導を受けていませんが、その『強さ』を全面に出すことが求められているのかな? とは感じました。ただ、そうやって型にはめて、レフェリーに必要な『強さ』をまず作るのが、日本人には合っていたのかなとも思います。
2017年にレイさん(筆者注:レイモンド・オリヴィエ。イングランドのプレミアリーグやフットボールリーグ等の審判に関する独立組織PGMOLインストラクター)がJFAに指導に来られて、『フットボールとは?』という哲学的な部分から、様々なことを学びました。レフェリーにあるグレーな部分を私たちが任されていますし、任される責任もある。それは凄く成長できるチャンスで、フットボールの喜びもある。その反面で悩みも増えました。ということは根底に『強さ』は必要ですよね。『強さ』がないと、プレッシャーに呑まれてグレーな部分をホームとアウェイで忖度してしまうかもしれません。それは絶対にやってはいけないことです」