【連載】小宮良之の『日本サッカー兵法書』 其の三十五「指揮官の視野」

カテゴリ:特集

小宮良之

2015年09月10日

指揮官の型と日本人の特長に埋まらない溝がある。

カンボジア戦で貴重な先制ゴールを挙げた本田。ただ一方で、クロスの質には問題を抱えていた。指揮官の選手評価はどこかチグハグで、その懐疑がゴール前での焦りや乱れの要因にも。(C)SOCCER DIGEST

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「私はこのチームですべきことを完璧に知っている」
 
 指揮官はそう言って強がるが、選考だけでなく選手評価の点でも疑問が消えない。
 
 例えばカンボジア戦、ハリルホジッチはノーゴールのFW陣に注文を付けたが、むしろ入れるクロスに問題があった。精度もタイミングも悪く、ストライカーの特長を活かせていない。
 
 本田圭佑は先制点を記録して面目躍如だったが、右サイドで左足に持ち替えて送るクロスはどれも単調だった。なんの駆け引きもなく、相手が手ぐすね引いて待つゴール前に放り込むだけ。長友佑都のクロスもかつての面影はなく、惨憺たるものだった。
 
「このレベルでも引っかかる」と語ったFW陣の言葉のほうが的確だろう。
 
 チームとして、どこかチグハグさが目につく。選考や評価に取り巻く懐疑が、とりわけゴール前で焦りや乱れを生む。その連鎖が格下相手にも苦しむ一因だろう。
 
 ハリルホジッチは、無理矢理にでも違う軸に戦い方を移そうとしているのかもしれない。だが、笛吹けど踊らず。なぜなら、指揮官の型と日本人の特長に埋まらない溝があるからだ。
 
 周知の通り、日本人選手は敏捷性には優れるものの、パワーやバネの部分ではどうあがいても劣る。指揮官はかつてアフリカの国を指導して成功したかもしれないが、同じ視点のメンバー選考では齟齬が生じ、自ずと采配も可能性を狭められてしまう。
 
 ボスニア系フランス人監督は野心に溢れる、鋭い思考力の持ち主だろう。サッカーに精通しているのは間違いない。ただ、話すことで自らと周りを高揚させ、熱気を作りたがる。自己顕示欲が強すぎ、喋りすぎることで自分と自分のやり方を規定してしまう。それが上手くいかないと苛立ちを隠せず、集団内部に出口のないストレスを生み出し、チーム力を矮小化させてしまうのだ。
 
 はたして、アフガニスタン戦の大勝は指揮官の視野を広げ、余裕のある采配を促すことになるのだろうか。
 
 
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。01年にバルセロナへ渡りライターに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写。近著に『おれは最後に笑う』(東邦出版)。
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