しかし、そこから始まったのは流転のキャリアであり、トラブルメーカーとしての人生だった。パリSGには結局4年半籍を置いたが、公式戦出場はわずか18試合(2得点)にとどまり、「総額2500万ユーロ(約32億5000万円)の移籍金をドブに捨てる、クラブ史上最悪の契約」と揶揄された。
故郷のラス・パルマスを皮切りに、ストーク、ベティス、スポルティング・リスボンと4度のレンタル移籍を繰り返すなかで、メディアに取り上げられるのはピッチ外の話題ばかり。ストーク時代は失踪事件を起こすなど規律違反を繰り返し、だらしない女性関係から裁判沙汰に巻き込まれ、最近ではコロナ禍でのマスクなしパーティーが批判を浴びた。
これほど分かりやすい形で転落していったフットボーラーも珍しいが、それでもかつて「C・ロナウドの後継者」と呼ばれた才能の灯火は、まだ完全に消えてしまったわけではないのかもしれない。
一昨年の12月、ついにパリSGを解雇されたヘセに救いの手を差し伸べたのは、4年前にも半年間だけ在籍した古巣、スペイン2部のラス・パルマスだった。
ケガでキャリアが暗転するも故郷で生気を取り戻す
生まれ故郷の空気がよほど身体に合うのか、あるいはかつて法廷闘争にまで至った元妻との復縁が心の支えになっているのか、「欧州の楽園」とも呼ばれる島で、ヘセが生気を取り戻している。
30歳の大台が迫り、かつてのスピードはなくなったが、よりCFとしての色を強めた2年目の21-22シーズンは、ここまで11得点をマーク。チームを昇格プレーオフ出場権争いに押し上げている(編集部・注/21-22シーズンのスペイン2部4位のラス・パルマスは、1部昇格プレーオフで5位テネリフェに敗れ、1部昇格ならず)。
もちろん、ここからヘセがC・ロナウドになることも、カナリア諸島の偉大な先輩たちのような成功を手にすることも、きっと難しいだろう。だが、少なくとも〝ゴシップまみれの堕ちた天才〞という汚名をそそぐことは、今からでも十分可能なはずだ。
文●吉田治良
※『ワールドサッカーダイジェスト』2022年6月16日号より転載・加筆