【連載】小宮良之の『日本サッカー兵法書』 其の二十八「自由のギャンブル性」

カテゴリ:特集

小宮良之

2015年07月23日

得点の確率増加は、失点の確率増加と同義。

バルサの伝統に反するように、効率的な戦い方に活路を見出したルイス・エンリケ。反発も少なからずあったが、指揮官は動じずに結果を残した。(C)Getty IMAGES

画像を見る

 しかし規律からはみ出た自由は、多量の危険を伴う。例えば守備のバランスを捨てた、7、8人もの選手が敵のバイタルエリアに侵入する攻撃は、華やかで成功を遂げると勢いを得られるものの、失敗すれば逆襲を受け、破滅的損害を受ける恐れがある。
 
それは言い換えれば、くじを引いてあたりかはずれか、という賭博性を隠し持っている。
 
「手数をかけたら得点の確率が増える」
 
 そう語られることがしばしばあるが、度が過ぎるとトップレベルでは敵に有利を与えることになるだろう。得点の確率増加は、失点の確率増加と同義なのだ。
 
 欧州のトップチームは(一部を除いて)カウンターの2、3人によってフィニッシュするのが定石となっている。7人も攻撃に関わらないと点が取れないなら、ストライカーの値打ちに合わない(彼らは多くがチームのなかでも高給を受け取り、得点を取るのが仕事だ)。たとえ遅攻でも、戦況が大きく不利でない限り、堅牢さを失った攻撃はハイリスクでギャンブル性を孕む。
 
 欧州王者になったバルサは、ポゼッションプレーから攻撃に手数をかけるのが伝統だった。しかし2014-15シーズンに就任したルイス・エンリケ監督は、効率的な戦い方に活路を見出した。それは伝統に反目し、反発も少なからずあったが、指揮官は動じなかった。
 
 守備のタスクをそれぞれの選手がこなし、無理に攻めに出ず、守備の安定の上に攻撃を築いた。攻撃を担ったのは、「MSN」と頭文字で呼称されるリオネル・メッシ、ルイス・スアレス、ネイマールの3トップだった。
 
 堅牢さありきか、自由独創ありきか。
 
 どちらを監督が採用するか、それは優劣で語るべきテーマではないだろう。しかし、戦い方の教科書は前者。後者は高度な応用編である。
 
 
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。01年にバルセロナへ渡りライターに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写。近著に『おれは最後に笑う』(東邦出版)。
【関連記事】
【日本代表】東アジアカップのメンバーが発表される! 武藤、遠藤らが初のA代表入り
バルセロナ「今夏の仕上がりチェック」新シーズン初ゴールはスアレス! 渦中のペドロも躍動
昨年の世代別代表“全敗劇”はなにをもたらしたか――新潟での「U-17&18合同合宿」が意味するもの
【連載】小宮良之の『日本サッカー兵法書』 其の二十七「守備者の武器」
【連載】小宮良之の『日本サッカー兵法書』 其の二十六「相手に応じた準備」

サッカーダイジェストTV

詳細を見る

 動画をもっと見る

Facebookでコメント

サッカーダイジェストの最新号

  • 週刊サッカーダイジェスト いざアジア王者へ!
    5月10日発売
    悲願のACL初制覇へ
    横浜F・マリノス
    充実企画で
    強さの秘密を徹底解剖
    詳細はこちら

  • ワールドサッカーダイジェスト ガンナーズを一大特集!
    5月2日発売
    プレミア制覇なるか!?
    進化の最終フェーズへ
    アーセナル
    最強化計画
    詳細はこちら

  • 高校サッカーダイジェスト 高校サッカーダイジェストVo.40
    1月12日発売
    第102回全国高校選手権
    決戦速報号
    青森山田が4度目V
    全47試合を完全レポート
    詳細はこちら

>>広告掲載のお問合せ

ページトップへ