ただ、高校入学しても直ぐに試合に出られるようになったわけではない。190cmを超える身長を持つ一方で、身体が出来上がっていなかったからだ。高校１年生の時にポテンシャルを期待されてナショナルGKキャンプに招集されたが、その当時の体重は73kg。手足の長さが目立つものの、スラリとした体型は決してアスリートと言えなかった。高校２年生の時も身体を鍛えている最中で、セカンドGKとして先輩たちのプレーを外から見る日々が続く。それでも腐らずにトレーニングを続けていくと、高校３年生でついにポジションを掴む。そして、この1年が若林の人生を大きく変えた。
 

「敢えて色んなチームの練習に行かせた。彼は教えるよりも、感じたことを素直に吸収できるタイプ。『上のステージでやりたいんだったら、課題を克服しろ』というメッセージを練習参加を通じて送ったんです」

　西澤監督は若林の成長をさらに促すべく、意図的に大学やJクラブの練習に送り出した。加入内定が決まった大宮はもちろん、J１クラブのトレーニングにも参加。埼玉県西部リーグや県大会1回戦では味わえない経験を肌で感じさせたのだ。

　その効果はてき面。若林は行く度に色んなモノを吸収して学校に帰ってきた。「２週間ぐらいの練習参加でもとにかく吸収することを心がけていた」と本人が振り返った通り、キャッチングなどの基礎技術を学んで成長を遂げていく。サッカーに対する取り組み方も変わり、ピッチ外での過ごした方も意識が変化。母親に頼んで栄養バランスが取れたメニューを用意してもらい、食事の回数を１日５回に増やした。筋力強化も昨年６月にできた学校内のトレーニングルームで今まで以上に取り組み、課題のフィジカル面にも向き合ってきた。その甲斐あって、体重は10kgアップ。身体の軸がブレないようになると、今まで以上にプレーが安定するようになった。

　高校３年間で夢を叶えた若林が、プロ入りを果たすまでに成長できたのはスタッフの支えがあったからだ。謙虚でひたむきな男は新たな世界でも感謝を忘れず、プロの世界に飛び込む。「素晴らしい場所で練習ができて、なおかつ準備もしてもらっている。お金をもらってプレーするからこそ、努力をもっとしないといけないし、結果を出さないといけない」とは若林の言葉。自分を育ててくれた狭山ヶ丘に別れを告げ、次の目標に向かって歩き出す。

取材・文●松尾祐希（フリーライター）