【連載】小宮良之の『日本サッカー兵法書』 其の二十七「守備者の武器」

カテゴリ:特集

小宮良之

2015年07月16日

守備者にとって、武器の使い方を間違えないことが最も重要。

武器という観点から見れば酒井宏は最高級の素材だが、しばしばその武器を自軍に向けてしまう。武器の使い方を間違えれば、DFとしては致命傷となり得る。写真:SOCCER DIGEST

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 ただ、守備者に必要な特性とは、分かりにくさの中にあるのだ。例えば日本代表の右SBを務める酒井宏樹は、優れたサッカー選手と断言できる。武器という観点から言えば、最高級の素材かもしれない。右足のクロスの質は高く、精度も球筋も並ではない。走力も明らかに高く、大きなストライドで雄壮に攻め上がれる。長身でヘディングも強く、外国人選手と競っても負けない。プレーをダイジェスト映像にすると、良さが際立つ選手だろう。
 
 しかし酒井は守備者として、しばしばその武器を自軍に向けてしまう。攻撃的SBとして不用意に攻め上がり、留守にしたスペースを敵に突かれる。あるいはゴール前の競り合いで、相手にヘディングで勝つもゴールに向かって折り返す、自殺行為に近いクリアをしてしまう。これらは武器の使い方を間違っているということであり、DFとしては致命傷となり得る。
 
 守備者にとって、武器は持っているかどうかよりも、その使い方を間違えないことが最も重要なのである。「相手に武器を使わせない」。そのやりとりのなかで成長できる非凡さこそが問われるのだ。
 
 17歳でFCバルセロナに入団した時のカルレス・プジョールは、誰が見ても「チームで一番下手な選手」だった。しかしSBにコンバートされた後のプジョールは、「敵にプレーをさせない」という点で、凄まじい熱量を見せた。
 
 ひたすら敵に食らいつき、プレーインテンシティの高さで守備を支え、その安定を攻撃にまで伝播させた。高いレベルの相手とやり合いながら、自らの戦闘力を引き上げる才能に恵まれていたのである。カンプ・ノウでルイス・フィーゴを完封した後、不動の存在となっていった。
 
「目に見える武器なんて、俺にはなにもなかったよ」
 
 かつてFWだったプジョールはそう洩らしていたことがある。見えていない武器こそが、守備者には欠かせないのだ。
 
 
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。01年にバルセロナへ渡りライターに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写。近著に『おれは最後に笑う』(東邦出版)。
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