「普段あんな距離を走ることはほとんどないのに、あの瞬間に『俺が決めなきゃ』と思って、気が付いたら全力でスプリントしていました。シュート練習は普段からやっていて、草野なら突破して良いボールをくれると思った。決めることができてめちゃくちゃ嬉しかったです」

　殊勲の１発を挙げたチェイス・アンリは試合後、こう笑顔を見せた。

　前半からチェイス・アンリは、積極的なフィードで学法石川の守備組織にできる歪みを狙い続け、守っては圧倒的な空中戦と対人の強さで相手の攻撃を凌いでいた。得意のシュートブロックも４度披露し、そのうちの２本は決定的なピンチだった。彼の守備がなかったら、学法石川が試合の流れを完全に掴んでいたかもしれない状況のなかで気を吐き続けた。

　１失点こそしてしまったものの、昨年は予選準決勝で０-１の敗戦を喫した悔しさが胸にあり、「このまま終わってしまうのは絶対に嫌だった」と何が何でも勝ち切るという勝利への執念が自然と身体を突き動かしていた。だからこそ、誰もが「なぜそこにアンリがいるの!?」と驚くほどの高速ロングスプリントが土壇場で生まれたのだ。
 

「やっぱりアンリは持っている。僕もあそこにアンリが走ってきて驚いた。彼は常に謙虚で、課題に向き合いながらコツコツと努力を積み重ねられる男。やっぱりそうした日常がこんな劇的な流れを引き寄せるのだと思います」

　FC湘南ジュニアユースとの練習試合で彼に魅了され、尚志へと導いた仲村浩二監督にとってもチェイス・アンリは思い入れの強い選手だ。「日本の宝。だからこそ、責任を持って指導に携わらないといけない」と思い続けてきた。本人からの恩返し弾とも言える一撃に、指揮官も思わず目を細めた。

「100回大会は絶対に出たかった。選手権は中学の時に初めて見てすごく憧れていたし、１年の時は途中出場で経験したのですが、よく分からないまま終わってしまった。今年こそチームのために全力でプレーして、（尚志初の）全国制覇を達成したい」

　チェイス・アンリの目はすでに全国大会へと向けられていた。今度は全国のサッカーファンに驚きと興奮を与えるべく、高校ナンバーワンCBは高校最後の大会に向けて力強い一歩を踏み出した。

取材・文●安藤隆人（サッカージャーナリスト）

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