トゥヘル監督は、違う選手で同じ匂いのするチームを
指導者と言っても、一括りにはできない。
監督とコーチはやるべき仕事は重なるところがあるものの、求められる行動規範やパーソナリティは全く違う。監督は統率し、決断するのが仕事で、コーチは様々な形はあるが、基本的に監督をサポートする。日本はコーチとして長年従事し、監督になるケースが多いが、その”丁稚奉公”は根本的な矛盾点を抱えているのだ。
世界の名将の大半は、監督として成熟する。たとえユースやセカンドチームであっても、あくまで監督として統率と決断を学ぶことで、監督として経験を積む。コーチとしては研修程度で、1、2年程度やるのみで、それがベーシックな形だ。
当然だが、監督もそれぞれタイプは異なる。パーソナリティや経験によって、異なるキャラクターを持つ。どのようなプレーモデルを植え付けるのか。監督のキャラクターは、チームとしての戦いで色濃く出るものだ。
例えば、2年連続で異なるチームでチャンピオンズ・リーグのファイナリストになったトーマス・トゥヘル監督は、違う選手で同じ匂いのするチームを作り上げている。フォーメーションなども同じではない。しかし、サイドで幅を取りながら、中央を固め、蹂躙する。違う選手、違うシステムだが、攻撃で相手を飲み込むような連係にはデジャブ感がある。信条や理念は通ずるものがあるのだろう。
監督とコーチはやるべき仕事は重なるところがあるものの、求められる行動規範やパーソナリティは全く違う。監督は統率し、決断するのが仕事で、コーチは様々な形はあるが、基本的に監督をサポートする。日本はコーチとして長年従事し、監督になるケースが多いが、その”丁稚奉公”は根本的な矛盾点を抱えているのだ。
世界の名将の大半は、監督として成熟する。たとえユースやセカンドチームであっても、あくまで監督として統率と決断を学ぶことで、監督として経験を積む。コーチとしては研修程度で、1、2年程度やるのみで、それがベーシックな形だ。
当然だが、監督もそれぞれタイプは異なる。パーソナリティや経験によって、異なるキャラクターを持つ。どのようなプレーモデルを植え付けるのか。監督のキャラクターは、チームとしての戦いで色濃く出るものだ。
例えば、2年連続で異なるチームでチャンピオンズ・リーグのファイナリストになったトーマス・トゥヘル監督は、違う選手で同じ匂いのするチームを作り上げている。フォーメーションなども同じではない。しかし、サイドで幅を取りながら、中央を固め、蹂躙する。違う選手、違うシステムだが、攻撃で相手を飲み込むような連係にはデジャブ感がある。信条や理念は通ずるものがあるのだろう。
監督というのは特殊なポストである。
「消防士」
そう言われるパートタイムの監督も、その特異性を表す一例だろう。チームの成績が低迷し、新たに監督を迎える余裕もないようなとき、内部昇格の形で「火消し役」となる。スペインでは、強化などにそういう役回りをする人物がいて、カンフル剤となるのが通例だ。
バレンシアのボロは、火消しのスペシャリストと言えるだろう。途中での監督就任は今シーズンでなんと7度目。必ずチームを好転させてきたが、今回もバジャドリードに勝利し、見事に降格危機を回避させた。
しかしながら、ボロがシーズン最初から監督を引き受けることはない。
「私は4試合のための指揮官だ」
今回も火を消す仕事をやり遂げたが、続ける意思はない。1年を通じ、監督を務めることが、また違った仕事であることを承知しているのだ。
監督は、凄まじい重圧を受ける。選手、スタッフの命運を握るわけで、それは想像を絶するものだという。チームを作り、毎試合、戦いを準備し、修正しながら、士気を高め、勝敗に向き合う。その仕事を引き受けるには、それなりの覚悟がいるのだ。
自分の人間性が滲み出るようなチームで勝負を挑み、勝つか負けるかを問う――。その一戦一戦に耐えられるような人物でなければ、監督という職業は務まらないのだ。
文●小宮良之
【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。
「消防士」
そう言われるパートタイムの監督も、その特異性を表す一例だろう。チームの成績が低迷し、新たに監督を迎える余裕もないようなとき、内部昇格の形で「火消し役」となる。スペインでは、強化などにそういう役回りをする人物がいて、カンフル剤となるのが通例だ。
バレンシアのボロは、火消しのスペシャリストと言えるだろう。途中での監督就任は今シーズンでなんと7度目。必ずチームを好転させてきたが、今回もバジャドリードに勝利し、見事に降格危機を回避させた。
しかしながら、ボロがシーズン最初から監督を引き受けることはない。
「私は4試合のための指揮官だ」
今回も火を消す仕事をやり遂げたが、続ける意思はない。1年を通じ、監督を務めることが、また違った仕事であることを承知しているのだ。
監督は、凄まじい重圧を受ける。選手、スタッフの命運を握るわけで、それは想像を絶するものだという。チームを作り、毎試合、戦いを準備し、修正しながら、士気を高め、勝敗に向き合う。その仕事を引き受けるには、それなりの覚悟がいるのだ。
自分の人間性が滲み出るようなチームで勝負を挑み、勝つか負けるかを問う――。その一戦一戦に耐えられるような人物でなければ、監督という職業は務まらないのだ。
文●小宮良之
【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。