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【安永聡太郎】“本物”スアレスがアトレティコにもたらした劇的効果を徹底解剖!バルサ戦で見えた変化とは?

カテゴリ:連載・コラム

木之下潤

2020年11月28日

スアレスはアトレティコのラストピースになった!

アトレティコに小さくない変化をもたらしたのがスアレス(9番)だ。(C) Getty Images

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 アトレティコは現在リーグ2位と調子をあげてきている。その要因は、シメオネ戦術の一貫性と「スアレス」というラストピースがハマったことにあると、僕は分析している。

 シメオネは3シーズンくらい「勝ち切る」ことにチャレンジし続けている。攻撃のタレントを獲得してシステムなどをいじっていたりするのもその一例。3バックにしたり、4-3-3にしたり、4-2-3-1にしたり、可変したりしてずっとチャレンジを続けていた。

 ご存知のとおり、守備については計算が立つクラブ。ただ、そこから攻撃に転じたときに点をとれない、ビッグチャンスなのにゴールを決めきれない悩みを抱えている。0-0のままゲームを終えたり、1-0のゲームを1-1に追いつかれたりするのがここ数シーズンの傾向だ。

 シーズン序盤に勝点が積めず、途中からこれまでどおりに「守ってカウンター」狙いのサッカーに切り替え、1点をとったら「1-0の美学」的な勝点の取り方でシーズン中盤から後半の流れを作って、なんとか上位をキープしてきた。

 そこに、今シーズンから「スアレス」という“本物”が入ってきた。正直、本物の加入でこうも変わるかと驚いている。ラストピースってこれだけの影響を与える存在なんだと思う。彼の加入は遅攻の部分で、アトレティコがボールを持ったときの「仕上げ」の段階が大きく変化した。相手の立場からすると、カウンタ―でも遅攻でも常に怖さが付きまとう。

 ジエゴ・コスタやモラタというフォワードは、相手の守備からすると遅攻になったときに「スペースさえ消してしまえば、対応できなくはない」という思いがあるから、チームからしてもカウンターサッカーのほうがハマる。

 だから、なんとかそれを解決しようとジョアン・フェリックスやルマールを高い移籍金を支払って獲得した。ピッチ上でもいろんな形態をとりながら、遅攻でも攻撃が安定するようにトライを続けたけど、なかなかかみ合わなかった。確かにジョアン・フェリックスは才能の片りんを見せつつある。だけど、まだまだ才能を出し切るまでには至らないし、ルマールは全くチームにフィットさせられていない。ジョアン・フェリックスはまだ20歳すぎで、プロとして経験が浅いからプレッシャーも当然ある。ただ2シーズン高いお金をかけたけど、攻撃の面でいいサッカーが表現できていないのは事実だ。
 
 そういうクラブの流れがあって、昨シーズンは最終ラインがごそっと入れ替わり、チームの中核を担っていたロドリも他のクラブに引き抜かれて、それでも上手にがんばって守備の継続を保ちながら、今シーズンようやく「スアレス」というラストピースがハマった。彼が入ることで、これまでの変化が一本の線で連なった。

 数シーズン前から「ボールを持ったときはこうプレーするんだよ」とシメオネ監督は伝え続けていた。

 でも、ゴールに結びつけるところがうまくいかなくて、相手のカウンタ―を食らってピンチを招いたりして、アトレティコらしさを失っていた。ボールを保持すること、コケにしろサウールにしろ中盤より前の選手のパス回し、後方の選手のボールの持ち出しはある程度は計算が立つ。

 ただGKオブラクの足下の技術を考えると、細かく後ろでボールを保持して相手を引き付けるよりシンプルにプレーしたほうが危険は回避できる。オブラクもたまにサイドバックに長いボールは入れたりするけど、センターバックとボランチを使いながら相手を剥がすようなプレーはしない。これはシメオネがオブラクというGKの資質として「手を使って守ることはスーパーだけど、足下でプレーさせることはチームにプラスを生み出さない」と判断しているからだと思う。

 そもそもボールを持つ理由は、ゴール前の選手たちにいい形でセットアップすることだ。この攻撃陣にこの形でボールを渡せばいい仕事をしてくれると明確な目的があったうえでボール保持が成立する。たとえば、それが数シーズン前のペップが率いていたバルセロナのメッシ。

 アトレティコはペナルティエリア近辺までボールが進むんだけど、「最後の色の描き方」というか、特に「ゴールを決める」という点においてフィニッシャーが遅攻に対して秀でた部分が足らなかった。昨シーズンからジョレンテが右のインテリオールだけでなく、トップ下としても機能し始め、飛躍のシーズンとなった。チャンピオンズ・リーグ(CL)のリバプール戦での2ゴールが大きな自信になっている。

 そんなことがあっても最後の仕上げとなるワンピースがなかなかハマらず、ゴールを決めることが弱点だったアトレティコ。そこに「スアレス」という速攻でも遅攻でもゴールを決めきるフォワードが加わった。荒々しいけど、うまい。相手にとってはこんな嫌なセンタフォワードはいない。この本物のストライカーが入ったおかげで、ジョアン・フェリックスが覚醒しつつある。

 スアレスのすごいところは、相手との駆け引きの中でスペースメイクができること。これを速攻でも遅攻でも実行できるのは世界中を探しても少ない。彼が生み出したスペースをジョアン・フェリックスやコレア、ジョレンテといった攻撃陣が活用し始めたところに昨シーズンとの大きな違いがある。

 もともと時折スペースを生かしたプレーを見せるも、最後のゴールを決める仕上げがうまくいかないのがアトレティコの弱点だった。

 それが「スペースメイク→活用する→ゴールに結びつける」という最後の仕上げまでの流れが一本きちんと筋が通ったことで、今シーズンはいろんな進化を見せつつある。カディス戦の4-0で勝った試合は4-4-2で守りながら攻撃時は3-4-2-1の可変システムでバリエーション豊かな攻撃を仕掛けている。スアレスを頂点にしながらいろんな攻撃ができるようになってきた。

 11月22日の試合は、そういう流れでバルセロナに挑んだ。
 
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