張りつめる緊張感のなかで、徳島市立の“PK職人”が大仕事をやってのけた。

　１月２日、駒沢陸上競技場で行なわれた全国高校サッカー選手権２回戦、徳島市立（徳島）と尚志（福島）の一戦は、前者がスコアレスで迎えたPK戦の末に４－３でモノにした。

　徳島市立を救った“ヒーロー”となった３年生GKの米田世波がベンチから呼び出されたのは、後半のアディショナルタイムを過ぎた頃だった。PK戦を見据えて、「やっぱりこいつかなぁと思っていた」という河野博幸監督の抜擢に応えて、守護神の中川真と交代でピッチに入ったのだ。無論、PK戦に向けた策である。

　指揮官が「やっぱり」と語ったのには理由がある。米田は昨夏に行なわれたインターハイで３試合連続のPK戦を経験し、シュートストップに関して無類の強さを発揮していたからだ。

　そして、河野監督の起用は見事に的中する。米田は後攻だったチームが２-３と劣勢で迎えた尚志の４人目、渡邉光陽のキックを右側に横っ飛びでファインセーブ。これで流れをグッと手繰り寄せる。

　米田はさらに魅せる。徳島市立の４人目が成功して３-３としたなかで、米田は尚志の５人目となった佐藤一輝のゴール右隅へのキックを「完璧に当たった」と手応え十分のセーブで再びストップしてみせたのだ。

　その裏にキャプテンの田内悠貴が冷静にラストキックを沈めて、全国屈指の強豪校である尚志を撃破した徳島市立。PK戦終了後、歓喜に沸くメンバーが一目散に駆け寄ったのは、米田であったのは言うまでもない。

　米田の貢献に河野監督は、「運が良いだけですよ（笑）。正直、練習もしていない」としながら、次のように話した。

「実はメンタルはめっちゃ弱いです（笑）。何度か辞めそうになったこともあった。でも、能力は中川よりも高い。足下の技術もあって、フットサルなんかをやらせても物凄く上手い。それと集中力はあって、研ぎ澄まされた時のあの感覚っていうのは本当に凄いですよ」

　本人はPKについて「自信があった」とはにかんだ。

「今までしてきたことを自信を持ってやった。今日はめっちゃ（ボールが）見えて、全部読めていた。昨日の練習でやった時には状態が戻ってきた感覚がして、だから、調子が悪くても、本番は止められると思っていた。夏の経験があってからの冬なので、あの実績があっての今なので、負けたらアカンなと思っていた」