ルヴァンカップ決勝／川崎３（PK５－４）３札幌／埼玉スタジアム2002

　終盤の88分、小林が劇的な逆転弾。この時点で、勝負は決したと思った方は決して少なくないだろう。しかし、ラストワンプレーで追いつかれると、延長前半６分にはチャナティップにファウルしたCB谷口が退場。追い打ちをかけるかのように、直後、福森のFKで２－３とひっくり返される……。

　天国から地獄へ。まさにそんな心境だったはずだが、GK新井の心は折れなかった。

「退場者が出て、その直後にゴールも奪われた。でも、ここで諦めたら意味はないなって。俺が出ている意味がないなって。だから、皆にしっかりと声をかけました。『とにかく気持ちだけは強く持て』と」

　同じ過ちは繰り返したくない。新井の脳裏によぎったのは２年前、ルヴァンカップ決勝でC大阪に敗れた苦い思い出だ。

「あの時の悔しい気持ちを取り返そうと思っていた」

　そんな新井の気持ちに応えるかのように、チームは延長後半に追いつき、運命のPK戦では新井自ら２本のキックをストップ。結果、新井はMVPに選ばれた。彼の諦めない気持ちが呼び込んだ勝利とも言えた。
 

　プロになってから、これまでなかなか出番に恵まれなかった苦労人のGKが晴れの舞台でスポットライトを浴びる。これほど感動的な出来事もないだろう。新井の努力と苦労を知る中村は次のように語る。

「試合に出られない時からずっと努力している姿を見ていましたからね。頑張っている選手には（MVPが）転がってくるんだなということを思いました。（新井）章太は出られなくてもチームを鼓舞してくれますし、最後、アイツがMVPで幸せな気分になりました。努力は報われるんだなって。サッカー界って、そうならないケースのほうが多いのに、ここまでグワーっと来たかという感じですね。素直に感謝したいし、今日は調子に乗っていいと思います」

　今回のルヴァンカップ制覇は、川崎を下支えしてきた苦労人の努力が実った瞬間でもあった。

取材・文：白鳥和洋（サッカーダイジェスト編集部）