今夏にジャカルタで行われたアジア大会決勝で日本代表を破り、歓喜に沸いた韓国代表。その中心にいたのは、オーバーエイジで参加し、キャプテンとしてチームを牽引したトッテナムのストライカー、ソン・フンミンだった。

　トッテナムでの活躍ぶりは周知のとおりだ。過去３年間で30ゴール以上を叩き出し、優勝争いに絡むチームの先鋒として小さくない貢献を果たしてきた。

　そんなソン・フンミンのフットボールキャリアにおける大きな試練が兵役義務だった。この21か月に及ぶ期間をかわすためには、韓国政府が対象としている「五輪でのメダルとアジア大会での金メダル」を獲得しなければならないため、彼は常に途轍もない重圧に晒されていた。

　そして、兵役免除の特例が認められる最後のチャンスとして迎えたのが、今年８月のアジア大会だった。大会中の韓国の強さと精神力は圧巻だった。グループリーグで格下のマレーシアに１-２と足をすくわれたものの、その後の巻き返しで決勝トーナメントに勝ち進むと、日本との決勝では120分間の死闘を戦い抜いて２-１で勝利。見事に金メダルを掴んだのだ。

　チームの中心に立ち、見事に試練を乗り越えたソン・フンミン。そんな点取り屋は、今月５日の英紙『Mirror』の取材に応じ、「あの優勝があったから僕はより良い場所にいられる」と、改めて、歓喜の瞬間を噛みしめた。

「もし優勝していなければ、僕は今ごろ、韓国の軍隊チームでプレーしていたと思う。アジア大会のことは、僕が自分の国で達成した最も重要なことであり、故郷の人々の喜ぶ顔は永遠だ。僕は自分の国に満足しているし、国と自分のチームメイトを誇りに思うよ」

　さらにソン・フンミンは、2015年８月にレバークーゼンから自身を引き抜き、今夏のアジア大会でも招集に応じる義務はなかったにも関わらず、快く代表戦へ送り出したトッテナムの指揮官マウリシオ・ポチェティーノに対しても、「僕を助けてくれた」と熱く語っている。

「監督は僕にありとあらゆるものを与えてくれた。ドイツから僕を引き抜いてくれて、チャンスまでくれて、全てにおいて助けてくれたんだ。チームがシーズンに向けて調整をする大事な時期にアジア大会へ出場させるというリスクも犯してくれた。それでいて戻ってきた時には、僕にいつものように接してくれて……。本当に彼は世界最高の存在だ」

　アルゼンチン人指揮官への敬愛を示したソン・フンミンは今年７月、トッテナムとの契約を2023年６月まで延長したばかりだ。兵役免除が決まった直後には、バイエルンへの移籍も噂されたが、本人はプレミアリーグ、そしてトッテナムでの成功を誓っている。

「僕にとってプレミアリーグでプレーすることは夢だ。今、歩んでいる旅路は信じられないものだと思ってる。イングランドでプレー出来るだけで凄いのに、トッテナムを代表する選手のひとりにもなれている。現段階で僕はこれ以上のことは望むつもりはない」

　夏に人生の山場を乗り越え、プレミアリーグでのプレー継続を掴んだソン・フンミン。今後もスパーズを支えるであろうアタッカーの、一挙手一投足から目が離せない。