【日本代表W杯の軌跡】さらば、陽炎の精鋭たち|06年ドイツ大会・ブラジル戦

カテゴリ:日本代表

週刊サッカーダイジェスト編集部

2014年06月07日

猛攻を耐え抜いての先制はこの上ない展開だったが…。

鮮やかに決まった玉田の先制ゴール。崖っぷちの日本にわずかな光が差した瞬間だったが……。 (C) SOCCER DIGEST

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 日本の出陣を前に、これまでワールドカップで残した足跡、つまり日本が戦った14試合を、週刊サッカーダイジェストの当時のレポートで振り返っていく本連載。今回紹介するのは、日本サッカーの恩師とも言うべきジーコがタレント揃いのチームを率いるということで、大いに期待を集めていた2006年大会だ。
 
 当時の興奮を思い出しながら、間もなく地球の裏側で始まる新たな戦いに思いを馳せていただきたい。
 
――◆――◆――
 
 万にひとつの可能性も残されていなかった。そう思わせるくらい、王国は木端微塵に、ジーコジャパンのかすかな望みを粉砕してくれた。
 
 ジーコ監督はとんでもないギャンブルに打って出た。クロアチア戦から中4日、シュート練習などに時間を費やすばかりで、試合当日までスタメンを明かすこともなかった。これは就任してから初めての事象で、選手たちも驚きを隠せない。というよりも、なんら戦術面での最終チェックを施すことがなかったのだから、困惑していたと表現するのが正しいのだろう。高原直泰、柳沢敦、福西崇史、そして出場停止の宮本恒靖……。ジーコジャパンを支えてきた重鎮たちが軒並み去ったピッチで、指揮官はブラジルを相手に“奇策”を施したのである。
 
 圧倒的なボール支配にさらされる日本。予想の範疇だ。それでも敵を誘い込んで跳ね返し、中田英寿が、稲本潤一が、カカやロナウジーニョに怒涛のごとく単独プレスを仕掛ける。それでも、ボールは奪えない。次第にシシーニョやカカが、サイドに流れては横方向にドリブルを敢行するようになり、日本のマークはボールにのみ集中してしまう。組織的なプレスが仕掛けられない日本守備陣が抱える最大の弱点。ブラジルはこれを流れの中で見抜いたのだろうか。チームとしての戦術眼に、脱帽するしかない。
 
 4分、7分、9分、13分、18分、目の覚めるようなパスワークで強引なまでに中央をこじ開けられ、シュートの嵐にさらされる。守護神・川口能活がまたしても神がかったセーブを連発させ、0-0の均衡を守り続けたが、必死に食いしばってブラジルに挑んでいく選手たちの姿、それでも反撃に転じられない虚しさに、目頭が熱くなる思いだった。
 
 やがて、その地道な努力が報われるようになり、一発のパスで裏を狙うFWの動きがようやく効果を発揮する。小笠原満男と加地亮が連動して右サイドを攻略し、チャンスには至らないものの、ブラジルDF陣を慌てさせ、瞬間的に敵のリズムを停止させる。敵陣でボールを回せるようになった日本。34分、ブラジルサポーターが7割方を占めるヴェストファーレン・シュタディオンが、サムライたちの“一矢”に驚嘆の声を上げる。
 
 左サイドの三都主アレサンドロがゆったりとボールをキープして中央へ侵攻、クロスして走り込む玉田圭司へスルーパスを通すと、ここぞという場面で勝負強さを見せてきたレフティは迷わず左足を振り抜いた。豪快なショットが名手ジダのニアサイドを破る。「気持ちも乗っていたし、イメージどおりだった」と自画自賛の先制点。日本にとってはこの上ない展開だ。

前半をリードして折り返したかった日本にとって、ロスタイムでのロナウドの同点ゴールはあらゆる点で非常に痛かった。 (C) SOCCER DIGEST

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