黒い森の小さなバルサ――躍進フライブルクの揺るがぬ理念と柔軟性

カテゴリ:連載・コラム

中野吉之伴

2017年04月14日

ないものねだりをせず、できることとできないことを整理した

現在6位と、残留争いどころか欧州カップ圏内にいるフライブルクだが、このクラブはそれで浮足立つようなことはない。 (C) Getty Images

画像を見る

 昇格チームというカテゴリーでは、現在2位につけているRBライプツィヒの陰に隠れてはいるものの、フライブルクもブンデスリーガ第28節終了時点で6位と、周囲の予想を良い意味で裏切って大躍進を遂げている。

 経営規模が小さくても、選手層が薄くても、いつでも立ち返ることができる自分たちのサッカースタイルがある。それが、フライブルクが誇る何よりの強みだ。

「地方の強豪クラブ」にしか過ぎなかったフライブルクが、ブンデスリーガに初めて昇格したのは1992-93シーズン。そこから今に至るまで、2部リーグ降格は4度あるが、うち3回はその翌年にすぐ、再昇格を果たしている。

 今でこそ年間予算7000万ユーロ(約84億円)という安定した資金力を手にするまでになったが、ほんの10年ほど前までは、トップサラリーの選手年俸が50万ユーロ(約6000万円)という、欧州における典型的な小規模クラブに過ぎなかった。

 どうすれば、この厳しい世界で自分たちの立ち位置を確立できるだろうか――。彼らの出した答えは、シンプルだった。

「ないものねだりをしてもしょうがない」

 これは、フライブルクのユースアカデミーディレクターを務める、アンドレアス・シュタイエルトの言葉だ。

 クラブとして、高らかな夢を掲げたいのは誰もが同じだろう。

「欧州の舞台へ!」「 ドイツ・ナンバーワンのクラブへ!!」

 だが、どうすればその目標に辿り着けるかも分からず、ふわふわと雲を掴むような話を口にすることだけが、クラブとしての存在意義の置き場所でもないはずだ。彼らは自分たちの現在地を詳細に分析し、できることとできないことを明確に整理した。

 フライブルクのある南西ドイツ地区は、有名な「シュバルツバルト」(黒い森)を中心に広大な森林地帯が占めており、人口密度も少ない地域だ。必然的に、サッカーをする子どもたちの絶対数も多くはない。州都であるシュツットガルトと選手数を比較すると、3倍近い差が生じる。

 また、近郊に強力な資金力を持つ企業がほとんどないという問題もあり、大型スポンサーの強力なバックアップを期待することもできない。

 人もお金も集まりにくい以上、ブンデスリーガというハイレベルな舞台で生き残っていくためにやれることは限られてくる。それは、選手を「自前で育て、高値で売る」という育成型クラブとしての道を歩むことを決断することだった。

 次に必要だったのは、どんな選手を育て上げるのかというコンセプトだ。フライブルクのアカデミーで育った選手だからこそ持つ付加価値がなければ、他クラブが高値を付けて獲得しようと思うわけがない。

 クラブの土台を築き上げたフォルカー・フィンケは、かつてヨハン・クライフが語った「ただ勝つためにプレーするのではない。魅力的に勝つためにプレーするんだ」という言葉をモットーに掲げた。

 自分たちでボールを保持し、ショートパスを中心としたインテリジェンスのある組織的なサッカーを志向するための育成哲学を確立。これをベースに、今でも各年代・年齢に応じたトレーニングを通して、自分たちのサッカーを浸透させている。

 最終ラインから丁寧にパスを繋いでいくサッカーを育成年代から徹底しているチームは、実はそこまで多くはない。だからこそ、ここで育った選手は重宝される。

 ドルトムントのドイツ代表DFマティアス・ギンター、レバークーゼンのトルコ代表DFエメル・トプラクは、そんなフライブルクが生んだ代表的な選手だ。
【関連記事】
【EL】拙攻の末に追い付かれたマンU…モウリーニョ監督は攻撃陣に「もっと真剣にプレーしろ!」
ミランの中国資本売却が正式決定! 31年間のベルルスコーニ時代に幕引き
「CR7伝説」の始まり――マンU時代のエピソードや鍛錬とは?
熾烈なプレミアのCL出場権争い! 日程的に有利なのは?
ディバラがユーベと契約延長へ! バルサやマドリーの関心に防波堤
動揺を抑えて大活躍した香川、敗戦に「バルトラのためにも勝ちたかった」

サッカーダイジェストTV

詳細を見る

 動画をもっと見る

Facebookでコメント

サッカーダイジェストの最新号

  • 週刊サッカーダイジェスト なでしこJに続け!
    4月10日発売
    U-23日本代表
    パリ五輪最終予選
    展望&ガイド
    熾烈なバトルを総力特集
    詳細はこちら

  • ワールドサッカーダイジェスト ガンナーズを一大特集!
    5月2日発売
    プレミア制覇なるか!?
    進化の最終フェーズへ
    アーセナル
    最強化計画
    詳細はこちら

  • 高校サッカーダイジェスト 高校サッカーダイジェストVo.40
    1月12日発売
    第102回全国高校選手権
    決戦速報号
    青森山田が4度目V
    全47試合を完全レポート
    詳細はこちら

>>広告掲載のお問合せ

ページトップへ