【ビッグクラブの回顧録】“あの時”のバルサを振り返る vol.7~1997-98シーズン ~

カテゴリ:メガクラブ

サッカーダイジェストWeb編集部

2015年12月01日

4年ぶりのリーガ制覇も、我が道を行く新指揮官に反感つのる。

中盤の大黒柱であるジョゼップ・グアルディオラを負傷で欠いたこともあり、安定感を欠く時期が長く続いたバルサ。しかし持ち直し、新体制1年目にして目標だったリーガ優勝を果たした。 (C) Getty Images

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勝利を追い求め、24時間をサッカーに捧げる仕事人間、ファン・ハール。本来なら高く評価されるところだが、バルサという特殊な環境のなかでは、1シーズン目から全てが裏目に出ることに……。 (C) Getty Images

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 バルセロニスタの支持を得られなかったロブソン体制に1シーズンで見切りをつけたバルサ首脳陣が、覇権奪回のために招聘したのは、オランダ人のルイス・ファン・ハールだった。
 
 この決定は当初、バルセロニスタにノスタルジーと希望を与えた。ファン・ハールというオランダ人監督がアヤックスから到来するということが、ヨハン・クライフ――バルサにとっての唯一無二のレジェンドの存在を誰の脳裏にも蘇らせたのは、至極当然のことだ。
 
 そして、ファン・ハールがアヤックスで披露した高度な組織による攻撃サッカー。これをバルサでも再現し、クライフ時代のような魅力的かつ強いチームを創り出してくれるという期待が、バルセロニスタの胸のなかで広がった。
 
 リーガ、チャンピオンズ・リーグ(CL)のダブル制覇を求められたファン・ハールは、多くの新戦力を手に入れたが、そのなかには、多くのオランダ人が含まれていた。当然といえば当然のことだが、これがチーム内、そしてクラブ全体での軋轢を生み出すこととなる。
 
 クライフに対するライバル心、嫉妬心、敵愾心……様々な感情を持つ新監督は、レジェンドへの挑戦を開始した。
 
 しかし、ファーストシーズンは不安定な状態でのスタートとなり、目標のひとつだったCLはニューカッスル戦で1勝を挙げるのみで、無残にも最下位でグループステージ敗退を喫してしまう。
 
 これで早くも、ファン・ハールへの周囲からの不信感が芽生え始まる。その後、戦術変更を繰り返した末にようやく脆弱だった守備が改善されたところで強さを見せ、最終的には4シーズンぶりのリーガ優勝と国王杯を手に入れたが、このオランダ人指揮官に対し、周囲が手放しで賞賛することはなかった。
 
 バルセロニスタは不満だった。CLを獲れなかったのもそうだが、ファン・ハールのサッカーが期待したものとは程遠かったからだ。彼らが望むのはスペクタクル。しかしファン・ハールは手堅いサッカーで、ただ結果をのみを追求した。
 
 そのスタイルは、選手にとっても窮屈そのもの。戦術至上主義の下で、クラッキ(天才)と呼ばれる選手でさえも、ポジションを固定され、歯車のひとつとして機械のように役割をこなすことを命じられていた。
 
 デポルティボのサポーターから非難を受けながらバルサに加入し、1年目にしてチーム最多得点を挙げたリバウドは、早々にこのスタイルに対して嫌悪感を抱いていたという(それでも彼とルイス・フィーゴにはまだ、ある程度の自由が与えられていたのだが……)。
 
 ヌニェス会長の信頼を後ろ盾に、我流で全てを推し進めたファン・ハール。1年目での二冠は普通ならば十分に評価できるはずだったが、残念ながらここは“普通のクラブ”ではなかった。
 
 前シーズンに加入2年目のルーマニア人選手、ゲオルゲ・ポぺスクがキャプテンに任命されたことがバルセロニスタの怒りを買い、批判に嫌気がさした彼は96-97シーズン開幕前、ファン・ハールが慰留したにもかかわらず、ガラタサライ行きを選んでいる。
 
 この例でも分かるように、カタルーニャの象徴という単なるサッカークラブの枠を超えた運動体であるがゆえに、バルサではとりわけ外国人選手や監督には様々な制約が与えられるのだ。それを理解せず、効率だけを追求することは、ここでは絶対に許されない。
 
 しかしファン・ハールは翌シーズン以降も、クラブの伝統には目もくれずに、我が道を突き進んでいくのだった。

監督:ルイス・ファン・ハール(オランダ)
その他の主なプレーヤー:GK V・バイア、DFフェレール、F・コウト、アベラルド、MF ・デ・ラ・ペーニャ、アモール、チリッチ、ロジェール、グアルディオラ、FW オスカール、ピッスィ

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国内二冠だけでなく、UEFAスーパーカップではドルトムントを合計スコア3-1で下している。 (C) Getty Images

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◎1997-98シーズン成績
リーガ:優勝(23勝5分け10敗・78得点56失点)
国王杯:優勝(対マジョルカ)
チャンピオンズ・リーグ:グループステージ敗退(最下位/対ディナモ・キエフ、PSV、ニューカッスル)
 
チーム内得点ランキング(リーガ):リバウド(19点)、L・エンリケ(18点)、S・アンデルソン(10点)、ジオバンニ(9点)、フィーゴ(5点)、オスカール(5点)、ピッスィ(2点)、デ・ラ・ペーニャ(2点)、セルジ(2点)、ボハルデ(2点)、ジョフレ(1点)
 
◎主なトランスファー
◇IN

GK ヘスプ(←ローダJC)
DF ボハルデ(←ミラン)
DF レイツィハー(←ミラン)
MF チリッチ(←パルチザン・ベオグラード)
MF ジョフレ(←ユースから昇格)
FW リバウド(←デポルティボ)
FW S・アンデルソン(←モナコ)
FW デュガリー(←ミラン)
◇OUT

GK ロペテギ(→ジェイダ)
DF ブラン(→マルセイユ)
DF ポぺスク(→ガラタサライ)
FW ロナウド(→インテル)
FW クエジャール(→ベティス)

FW ストイチコフ(→CSKAソフィア)
FW デュガリー(→マルセイユ)
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