誰もが魔法をかけられたかのような心境だった「アテネの夜」。
昨年で週刊誌としての役割を終え、新たな時代に突入したサッカー専門誌「サッカーダイジェスト」。実に21年にもおよんだ媒体の歩みは、日本サッカーの急成長と世界のサッカー界の大変動とともにあった。
そこで新たなシリーズとして今回より、21年間のなかで、その時々に起こった当時のサッカー界を象徴する出来事や、忘れていた懐かしいあのニュースを、通算で刊行数1000冊以上を数えた“週刊SD”の誌面とテキストとともに振り返っていく。
Jリーグフィーバーから日本サッカー最大の悲劇、28年ぶりの悲願達成、W杯共催、2002年の熱き1か月間、日本人選手の海外進出、W杯での悲喜こもごもetc.……懐かしい、あるいはまだ記憶に新しい事象の数々を、ここで思い出していただこう。
第5回は1994年6月8日号。アメリカ・ワールドカップ本大会を目前に控えた時期で、欧州サッカーシーンもクライマックスを迎えていた。
なかでも注目を集めたのは、チャンピオンズ・リーグ(CL)である。アテネでの決勝に駒を進めたのは、2年連続ファイナリストとなったミランと、2年ぶりに勝ち上がってきたバルセロナ。ミランは国内リーグ3連覇、バルサはそれを上回る4連覇を果たして、この決戦に臨んだ。
戦前の予想では、圧倒的にバルサが有利。というのも、バルサはCL決勝からさかのぼること4日前、前述の通りリーガ4連覇を果たしたが、その決定の仕方があまりに劇的だった。
最終節、2位バルサが5-3でセビージャを下したのに対し、勝点わずか1差で首位のデポルティボが終了1分前のPKを外し、バレンシア戦をスコアレスドローで終えたのだ。
爆発的な攻撃力でシーズンを戦ってきたバルサは、これで精神的にも勢いを得た。加えてミランが、フランコ・バレージとアレッサンドロ・コスタクルタという守備の要ふたりを欠いたことで、誰もが「ドリームチーム」と呼ばれるバルサの勝利を固く信じていた。
しかし、5月18日、ドン・フィリップ主審の笛が鳴ってから間もなくすると、アテネ・オリンピックスタジアムのピッチ上では、信じられない光景が繰り広げられた。
不利を予想されたミランが主導権を握り、22分にデヤン・サビチェビッチがバルサDF陣を切り裂いてダニエレ・マッサ―ロの先制点をアシスト、さらにマッサ―ロは45分にも強烈なシュートをバルサゴールに突き刺した。
後半開始から2分、サビチェビッチが巧みに相手DFから奪い取ったボールに左足で魔法をかけると、ボールはGKアンドニ・スビサレータの頭上を越してゴールに吸い込まれる。この試合のハイライトであり、CL史上にも永遠に残るスーパーゴールの誕生だった。
58分には攻守で抜群の存在感を示した守備的MFのマルセル・デサイーが抜け出し、難なくスビサレータとの1対1を制してバルサにとどめを刺した。
4-0――。ミランを愛し、ミランの勝利を祈り続けた者ですら、このような大差のスコア、一方的な展開を誰も戦前には予想できなかった。ジョセップ・グアルディオラやホセ・マリア・バケーロらによる中盤を無力化し、ロマーリオ、フリスト・ストイチコフの最強前線コンビに何もさせずに90分間を過ごすとは……。
まさに、全ての人間が魔法にかけられたような心境だった――。
では次頁で、その「アテネの夜の夢」を、当時の本誌のレポートからお伝えしよう。
そこで新たなシリーズとして今回より、21年間のなかで、その時々に起こった当時のサッカー界を象徴する出来事や、忘れていた懐かしいあのニュースを、通算で刊行数1000冊以上を数えた“週刊SD”の誌面とテキストとともに振り返っていく。
Jリーグフィーバーから日本サッカー最大の悲劇、28年ぶりの悲願達成、W杯共催、2002年の熱き1か月間、日本人選手の海外進出、W杯での悲喜こもごもetc.……懐かしい、あるいはまだ記憶に新しい事象の数々を、ここで思い出していただこう。
第5回は1994年6月8日号。アメリカ・ワールドカップ本大会を目前に控えた時期で、欧州サッカーシーンもクライマックスを迎えていた。
なかでも注目を集めたのは、チャンピオンズ・リーグ(CL)である。アテネでの決勝に駒を進めたのは、2年連続ファイナリストとなったミランと、2年ぶりに勝ち上がってきたバルセロナ。ミランは国内リーグ3連覇、バルサはそれを上回る4連覇を果たして、この決戦に臨んだ。
戦前の予想では、圧倒的にバルサが有利。というのも、バルサはCL決勝からさかのぼること4日前、前述の通りリーガ4連覇を果たしたが、その決定の仕方があまりに劇的だった。
最終節、2位バルサが5-3でセビージャを下したのに対し、勝点わずか1差で首位のデポルティボが終了1分前のPKを外し、バレンシア戦をスコアレスドローで終えたのだ。
爆発的な攻撃力でシーズンを戦ってきたバルサは、これで精神的にも勢いを得た。加えてミランが、フランコ・バレージとアレッサンドロ・コスタクルタという守備の要ふたりを欠いたことで、誰もが「ドリームチーム」と呼ばれるバルサの勝利を固く信じていた。
しかし、5月18日、ドン・フィリップ主審の笛が鳴ってから間もなくすると、アテネ・オリンピックスタジアムのピッチ上では、信じられない光景が繰り広げられた。
不利を予想されたミランが主導権を握り、22分にデヤン・サビチェビッチがバルサDF陣を切り裂いてダニエレ・マッサ―ロの先制点をアシスト、さらにマッサ―ロは45分にも強烈なシュートをバルサゴールに突き刺した。
後半開始から2分、サビチェビッチが巧みに相手DFから奪い取ったボールに左足で魔法をかけると、ボールはGKアンドニ・スビサレータの頭上を越してゴールに吸い込まれる。この試合のハイライトであり、CL史上にも永遠に残るスーパーゴールの誕生だった。
58分には攻守で抜群の存在感を示した守備的MFのマルセル・デサイーが抜け出し、難なくスビサレータとの1対1を制してバルサにとどめを刺した。
4-0――。ミランを愛し、ミランの勝利を祈り続けた者ですら、このような大差のスコア、一方的な展開を誰も戦前には予想できなかった。ジョセップ・グアルディオラやホセ・マリア・バケーロらによる中盤を無力化し、ロマーリオ、フリスト・ストイチコフの最強前線コンビに何もさせずに90分間を過ごすとは……。
まさに、全ての人間が魔法にかけられたような心境だった――。
では次頁で、その「アテネの夜の夢」を、当時の本誌のレポートからお伝えしよう。