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審判の存在意義すら危うくしているVAR。「完全な正義」のはずが、むじろ火種に【小宮良之の日本サッカー兵法書】

カテゴリ:連載・コラム

小宮良之

2022年10月26日

「怨恨で取り扱わなかった」という憶測が流れた

CLインテル戦で主審の判定に不満を爆発させたバルセロナのシャビ監督(右)。(C)Getty Images

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 VAR(ビデオアシスタントレフェリー)に関しては、導入する前から賛成する要素が少なかった。

「せっかくのゴールを祝うシーンの喜びを半減させる」
 
 一つには、選手側の単純な感覚があるだろう。

 VARが介入することで、記録したゴールもすべてはいったん、お預けになる。もちろん、大概は改めて与えられるのだが、せっかく自分たちが全力でもぎ取ったものが「審査のプロセスを経る」というのは、サッカーというスピード感、連続性が高いスポーツとして、原理原則に背を向けたルールと言えるのだ。

 それでも、完全な正義が成立するなら、やむなしと言ったところだった。しかし危惧されていた通り、現実はむしろ騒動が目立つようになっている。

「主審はVARで何を確認したんだ!」
 
 FCバルセロナの関係者は怒りがおさまらない。

 チャンピオンズリーグ、グループリーグ第3節でバルサはアウェーでインテル・ミラノと対戦したが、その試合で不可解な判定に振り回された。自分たちの故意ではないハンドはPKの判定で、相手のあからさまなハンドはPKとならなかった。問題をややこしくしたのは、VARに入った人物はバイエルン戦でも不利な判定を下し、バルサと揉めていただけに、「怨恨で取り扱わなかった」という憶測が流れたのだ。

 結局、VARを運用し、決定を下すのは人間である。そこにはしっかりと主観が入る。つまり、永遠に公平ではない。

【画像】PKなしは妥当? シャビ監督が激怒したインテルMFのクリアシーン
 サッカーはそもそも、グレーの部分があるスポーツである。明らかなファウルというのはあるが、ファウルとも言えるが、ファウルではないとも言える、というグレーが存在し、そこはたとえ優秀な審判であっても、100%一致することはない。それはビデオで何回繰り返し見たとしても同じことで、バルサ対インテル戦のようなトラブルはそこら中で生み出されている。

「審判に文句を言うべきではない」
 
 だからこそ、VAR以前はそれが原則だった。あまりにひどい判定は議論されるべきだが、審判のジャッジがリスペクトされることで初めて、この競技は成立する。しかし、ビデオを使ってジャッジした場合、「映像を審査しながら、何を見ているんだ!」という不平不満が収まらない。しかも時間を長々と懸け、ろくでもない判定だったら…。
 
VARそのものが火種になった。
  
 もちろん、人間は科学技術の進歩に適応し、生きていくべきである(ゴールラインテクノロジーは最たるものだろう)。その点、VARとの共存もひとつの道だろう。ただ、今のところ、多くの判定を正しく修正したかもしれないが、同時に試合の流れを断ち切ってつまらなくし、不必要な議論を呼ぶ格好になっている。

「百害あって一利なし」

 そこまでこき下ろすつもりはない。しかし、サッカーというスポーツのスペクタクル度を下げ、審判の存在意義すら危うくしている。これからもトラブルを生み続けるはずで…。はたして、その導入にどれだけの権益が動いたのだろうか。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。

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