【名将の証言】なぜ最強・清水東に勝てたのか。帝京ブランドを築いた古沼監督の帝王学

カテゴリ:高校・ユース・その他

白鳥和洋(サッカーダイジェスト)

2022年01月01日

「試合のたびにおごらされる日々。そこから私の監督人生が始まった」

帝京高をサッカーの名門校に育て上げた古沼監督。その言葉には確かな説得力があった。写真:サッカーダイジェスト

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 言わずと知れた高校サッカー界きっての名将だ。帝京高の監督として冬の高校選手権を6回(1974年度、77年度、79年度、83年度、84年度、91年度)、インターハイを3回(76年、82年、02年)と計9回の全国制覇を成し遂げているわけだから、当然、古沼貞雄氏の言葉には確かな重みがある。

 例えば「久保建英もまだまだこれから」というコメントの真意(インタビューで言及)も頷けるもので、それは指導者として酸いも甘いも知り尽くしているからこその見解だ。経験に裏打ちされた言葉は心地よく、聞いている側の心に突き刺さる。

 分かりやすい言葉で説明し、選手たちに実践させる。そういうスキルを持っていないと、これだけの実績を残せないと勝手ながらそう思う。実際のところ、自身はほとんどプレー経験がないという古沼氏はどう選手たちを鍛え上げ、帝京ブランドを築いたのか。その口から語られる教えは帝王学と呼べるものだった。

──まず、帝京の監督になった経緯を教えてください。

「私はね、帝京へ行きたくて行ったわけじゃないんです(笑)。私は日大出身で、たまたま縁があって日大の準付属だった帝京に『赴任してくれ』と言われて。それでサッカー部員の指導もしてほしいという流れになって。正直、『サッカーに詳しくない私に勤まるのか』と思いましたが、もうね、断れるような雰囲気ではなかったですよ(笑)」

──赴任当初(1964年)のサッカー部はどんな様子でしたか?

「当時は部員が30人くらい。で、みんな上手いんですよ、ボールを扱うのが。まるで曲芸師を見ているような感覚でしたよ。でも、なぜか『試合には負ける』と彼らは言うんです。その頃はちゃんとした監督もいなくて、自分たちを観に来てくれる人たちがいなかったせいで気持ちが入らなかったんでしょうね。

実際、私が試合を見学するようになると勝つわけですよ。7‐0とかで。いわゆるハーフコートゲームで、コケにしてしまうんです。誰かに見てもらうことが相当に嬉しかったんでしょう。いつしか部員たちから『先生、試合に勝ったら、ラーメンでもおごってくれる?』なんて言われるようになりましてね。試合のたびにおごらされました(笑)。そういう付き合いから、私の監督人生は始まったのです」
 

──その年には関東大会の出場権を獲得したそうですね。

「そう、で、関東大会の2回戦で当時6連覇中だった浦和市立(埼玉)に勝つんですよ、延長戦の末に。ですが、その日の夜中まで騒いでいたせいで、翌日の3回戦で山梨の日川高に0‐3とあっさり負けてしまう。明らかに走り負けで、騒いでいたツケを払わされた格好でした」

──同年度開催の選手権にも帝京は出場しています。

「実を言うと、当時はまだ私に『監督』の肩書きはありません。赴任1年目はある意味見学で、サッカー部の顧問になるのは翌年からですから。ですので、その年の選手権には自腹で(開催地の)大阪に行きました(笑)。大会で印象に残ったのは、帝京が2回戦で敗れた相手、秋田商業の選手たちの風貌や戦いぶりです。みんな坊主で、礼儀正しい。ピッチではしっかりとプレーするし、いずれ帝京を『秋田商みたいなチームにしたい』と思いました」

──その想いを胸に、帝京での監督人生が始まったわけですね。

「監督になった当初、お世話になったのが藤枝東(静岡)の長池実監督。私と同じ東京出身という縁があって、練習試合を組んでもらったわけですが、最初にお会いした時は長池さんが(監督として)全国制覇しているなんて知らない(笑)。藤枝の駅まで迎えに来てもらって、長池さんに荷物を持ってもらったら、うちの生徒が言うわけですよ。『古沼先生、長池さんに荷物なんて持たせたらダメですよ』って(笑)。それぐらい当時の私は、高校サッカーに関する知識が乏しかった。

凄かったのは帝京でマネージャーをやってくれた生徒たち。神戸高(兵庫)、豊田西(愛知)、藤枝東など強豪校と呼ばれるチームに電話して、試合を組むんですよ。遠征の日取り、その期間の細かいスケジュールも決めてくれて、本当に助かりました。遠方で複数の遠征試合をするなんて、高校では帝京が初めてだったと記憶しています」
 
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