【名将の証言】なぜ最強・清水東に勝てたのか。帝京ブランドを築いた古沼監督の帝王学

カテゴリ:高校・ユース・その他

白鳥和洋(サッカーダイジェスト)

2022年01月01日

「長い指導者人生の中で、こんなアピールをしてきた選手は彼ひとり」

まさに高校サッカー界きっての名将だ。そんな古沼氏は矢板中央高でアドバイザーを務めている。写真:徳原隆元

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──帝京ブランドの象徴のひとつが、第66回大会(87年度)の選手権に出場したチーム。礒貝洋光選手、森山泰行選手、本田泰人選手らスーパースターがズラリと揃っていました。

「当時の帝京にはアンダーカテゴリーの代表候補が13人もいましたから、『選手権で優勝するだろう』と言われるわけです。ところが、現実は違う。その代表候補の大半が膝や腰などに持病があって、森山なんてグラウンドで練習したのは3年間のうち10か月くらいだったと記憶しています。礒貝もしばしば膝が抜ける症状に悩まされていてフル稼働できない。そんな様子だから、いつしかチームは計算しながらプレーするようになってしまうんですよ。

ある学校の文化祭に呼ばれて試合をしても、最後の最後に追いつくような帳尻合わせをする。それでは選手権で勝てるはずがありません。東海大一(静岡)との準々決勝は負けるべくして負けました(結果は0‐0でPK負け)。基本的に余裕をこいていて、PKの練習なんてしたこともないわけですから。もちろん、そんな状態にしてしまった私の責任は重いですよ」

──敗北の歴史も経て、帝京は第70回大会(91年度)の選手権で再び頂点に立ちます。市立船橋(千葉)との準決勝では、残り3分で1‐1に追いついたあと、古沼監督は「もう1点取りに行かないとダメじゃないか」と檄を飛ばしました。その時の心境を改めて教えてください。

「追いついて勢いがあるわけですから、『PK戦にしては勿体ない』と。だから『緩めるな、行け、行け』と選手たちを鼓舞しました。明らかに試合の流れが来た状況下でゴールを目指すのは当然ですよね。ちなみに、この試合ではピッチ外で面白い出来事がありまして。残り5分、負けている時にベンチ要員の谷口(哲朗)が私のところに来て『先生、1分でもいいから出してください』と言うわけですよ(笑)。長い指導者人生の中で、こんなアピールをしてきた選手は彼ひとり。仕方ないから『アップしておけ』と告げましたが、その直後に追いついて、もう交代どころじゃなかった(笑)」[編集部・注/試合は帝京が2‐1で勝利]
 

──当時と比べて、近年の高校サッカーはどうでしょうか。Jリーグのユースチームにリードされている印象もありますが。

「決してそんなことはないと思います。(高円宮杯)プレミアリーグを見ても、青森山田、大津(熊本)あたりの戦いぶりは素晴らしいです。むしろ、高校以上に施設も資金面も充実しているだろう『ユースチームは何をやっているんだ』と言いたい(笑)。

まあ、どこでサッカーをやるにしても、高校年代で重視すべきは人間形成の部分。いわゆる人間力が後々の人生でなによりものを言います。サッカーが上手いだけで、生きていけるわけではありません。(現在20歳の)久保(建英)が何かと騒がれていますが、私に言わせれば『まだまだこれから』。彼が25歳、26歳になった時に日本代表でどんな立ち位置にいるか。選手として、そしてなにより、人としてどう成長しているか。そこで判断すべきだと思います。ただ単にサッカーの技術を追求しただけでは一流になれません」

──最後に、高校年代の選手たちにメッセージをお願いします。

「大切なのは毎日出し惜しみせずにプレーをすること。『そんな馬鹿な』と思う練習でも、まずはしっかりやってほしいです。昨日よりも明日、明日よりも明後日のほうが上手くなれるように頑張る。その過程で苦しんでもいいんです。『ダメだ』と落ち込まずに、できること、できないことを整理する。それだけでも見えてくる何かはあるはずです」

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<プロフィール>
古沼貞雄(こぬま・さだお)/1939年4月25日生まれ、東京都出身。1964年に帝京高の教員となり、翌年よりサッカー部監督に就任。全国優勝は、選手権6回、インターハイ3回を数える。2003年で退任し、以降は東京Vユースや流経大柏でアドバイザーを務め、08年からは矢板中央のアドバイザーをしている。

<コーディネーター>
鹿内幸治(しかうち・こうじ)/アメリカと日本を拠点とし、サーフィンの国際ジャッジとサッカー指導者としても活躍。ITを駆使する最先端のアナリストとして数チームをサポートするかたわら、講義・講演も行なっている。恩師でもある古沼監督のマネージャーの様な役割も。

取材・文●白鳥和洋(本誌編集長) 協力●㈱ジェイ・エス

 
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