「僕の弱点? メンタル」
FC十文字ベントスのホームタウンはグラウンドがある埼玉県新座市と、そこから道路を挟んだ東京都清瀬市。Jリーグにはない県境をまたぐホームタウンだが、石山は将来の広域化をすでに思い描いている。
「行政の境界線を越えて、ホームタウンを広げていきたいなって」
ちなみに、十文字中学と高校の所在地は東京都豊島区だ。
「広域にできれば、応援してくれる企業や人もそれだけ増えます。いずれ豊島区まで広げていきたい」
ホームタウンの拡大は、普及育成の課題解決にも繋がってくる。日本サッカー協会の女子の登録チームと選手数は、15年のデータで1235チーム、2万7169人。男子を合わせた全体の4.4パーセントと2.9パーセントに過ぎない。しかも13年の1409チーム、3万243人からだいぶ減っている。競技人口が伸びない理由のひとつに、受け皿の問題がある。中高の女子サッカー部は多くない。
「日本の女子サッカーの課題を突き詰めると、普及育成なんですよ。それを強化に還元できるサイクルをぐるぐる回せるようにならないと、いつまでもマイナー競技のままです」
広域化が叶えば、例のピラミッドは縦横に広がっていく。頂点がたくさんの逆台形も大きくなる。
「学校+地域だと裾野が広がりますし、てっぺんも高くなりますから」
展望はその先もある。
「この十文字モデルが日本中、地方の女子大や短大に波及する。全国的には知られていない大学が、町興しの中心になる。結果として、女子サッカーの競技人口が増えて、普及育成活動に繋がります。これ、すごく良くないですか?」
―――◆―――◆―――
中学時代に憧れたのが、サッカー部の顧問だった。ラーメン屋に連れて行ってくれたり、ゲンコツを食らったり、丸坊主に頭を刈られたり。
「すごく楽しかった。サッカーも学校も好きになりましたね」
仏と鬼の原点は、そんな中学時代にあるのかもしれない。好奇心に駆られて、最後に聞いた。石山にも弱点はあるのだろうか。
「僕の弱点? メンタル」
こちらが、よほど意外そうな顔をしていたのか。「みんなそういう反応ですけど、気にするんです、これでも。あ、言い過ぎたとか、こんなふうに思われてるんじゃないかとか、あの自分の言動どうだったんだろうとか。だから落ち込みやすかったりします。もちろん教え子たちには見せませんけど、実は弱いんです。フッフッフ。これホントですから」。
そして話はこう続く。
「もしかすると、それが僕の強みかもしれません。気にする分、気を配りますし、部員たちにもフォローしてきました。けっこう厳しくしても、だから付いてきてくれるのかな」
ボール1個ない同好会から始めた女子高のサッカー部が、地道な活動をコツコツ続け、21年でここまで大きくなった。今では信頼するスタッフが、各カテゴリーの監督やコーチに加え、クラブ機能を支えるマネジメントの分野にも集まっている。“鬼の石山”だけで、こうした求心力を持ちえたとはとうてい思えない。この男には、飛び切りの笑顔もよく似合うのだ。
取材・文:手嶋真彦(スポーツライター)
「行政の境界線を越えて、ホームタウンを広げていきたいなって」
ちなみに、十文字中学と高校の所在地は東京都豊島区だ。
「広域にできれば、応援してくれる企業や人もそれだけ増えます。いずれ豊島区まで広げていきたい」
ホームタウンの拡大は、普及育成の課題解決にも繋がってくる。日本サッカー協会の女子の登録チームと選手数は、15年のデータで1235チーム、2万7169人。男子を合わせた全体の4.4パーセントと2.9パーセントに過ぎない。しかも13年の1409チーム、3万243人からだいぶ減っている。競技人口が伸びない理由のひとつに、受け皿の問題がある。中高の女子サッカー部は多くない。
「日本の女子サッカーの課題を突き詰めると、普及育成なんですよ。それを強化に還元できるサイクルをぐるぐる回せるようにならないと、いつまでもマイナー競技のままです」
広域化が叶えば、例のピラミッドは縦横に広がっていく。頂点がたくさんの逆台形も大きくなる。
「学校+地域だと裾野が広がりますし、てっぺんも高くなりますから」
展望はその先もある。
「この十文字モデルが日本中、地方の女子大や短大に波及する。全国的には知られていない大学が、町興しの中心になる。結果として、女子サッカーの競技人口が増えて、普及育成活動に繋がります。これ、すごく良くないですか?」
―――◆―――◆―――
中学時代に憧れたのが、サッカー部の顧問だった。ラーメン屋に連れて行ってくれたり、ゲンコツを食らったり、丸坊主に頭を刈られたり。
「すごく楽しかった。サッカーも学校も好きになりましたね」
仏と鬼の原点は、そんな中学時代にあるのかもしれない。好奇心に駆られて、最後に聞いた。石山にも弱点はあるのだろうか。
「僕の弱点? メンタル」
こちらが、よほど意外そうな顔をしていたのか。「みんなそういう反応ですけど、気にするんです、これでも。あ、言い過ぎたとか、こんなふうに思われてるんじゃないかとか、あの自分の言動どうだったんだろうとか。だから落ち込みやすかったりします。もちろん教え子たちには見せませんけど、実は弱いんです。フッフッフ。これホントですから」。
そして話はこう続く。
「もしかすると、それが僕の強みかもしれません。気にする分、気を配りますし、部員たちにもフォローしてきました。けっこう厳しくしても、だから付いてきてくれるのかな」
ボール1個ない同好会から始めた女子高のサッカー部が、地道な活動をコツコツ続け、21年でここまで大きくなった。今では信頼するスタッフが、各カテゴリーの監督やコーチに加え、クラブ機能を支えるマネジメントの分野にも集まっている。“鬼の石山”だけで、こうした求心力を持ちえたとはとうてい思えない。この男には、飛び切りの笑顔もよく似合うのだ。
取材・文:手嶋真彦(スポーツライター)