「良きサッカー選手である前に、良きサッカー部員であれ」
石山が大切にしてきたのは、文武両道だ。サッカー部創設当時、十文字学園にはスポーツを経営資源と見なす発想自体がなかった。あくまで本分は学業であり、部活動の継続には“文部両道”が不可欠だったのだ。今でも石山はこう諭す。「良きサッカー選手である前に、良きサッカー部員であれ。トップチームの選手には、まず良き社会人であれ」と。
石山の脳裏に焼き付いている光景がある。遠征に向かうバスの中でも時間を惜しみ、教科書や参考書を開いていたあるサッカー部員の姿だ。十文字高校は東京都内の巣鴨駅近辺にある。その生徒は学校まで、片道2時間かけて通学していた。「希望の大学があったんですね。夢に突き進むその背中で、部員たちを引っ張った彼女の存在は大きかった。後輩たちに、スゴい卒業生がいたんだぞって話もできます。すると同じような生徒が出てきて、毎年のように増えていく。今では部員同士、友達同士、助け合っているのでしょう」
サッカー部員の成績優秀者の比率は、かなり高い。具体的なパーセンテージを教えてくれた石山は、こう付け加えて笑いを誘った。「ちょっと、えばっちゃいました(笑)」。
石山が温めてきた十文字フットボール構想の実現への追い風となっているのが、今冬の高校選手権優勝だ。
「けっこう前から自分なりの主張はしてきましたが、最近まで見向きもされなかった(笑)。アイツ面白いこと言っているぞって、話を聞いてもらえるようになったのは、選手権の優勝もあるからでしょうね。勝つから注目されるし、でもちゃんと理念を持って地道にやらないと勝てないだろうし。ニワトリが先か、タマゴが先か、分かりません(笑)。勝つのも、ウン、重要ですよ」
4月末の快晴の日曜日、FC十文字ベントスが、なでしこチャレンジリーグの試合に臨んでいた。真昼の日差しは強く、198人と発表された観客の中には半袖の人もいる。
ベントス1点のリードで迎えた後半半ば、CFの中原さやかがタッチライン越しに声を掛けられた。彼女の視線の先には紳士が――。何やら中原にアドバイスを授けている。それまで黙って試合を注視していたその紳士こそ、なでしこジャパンの前監督で、日本の女子サッカーを11年のワールドカップ制覇に導いた佐々木則夫であった。
「なでしこジャパンが、昨年のリオ五輪に出場していたら……」
恐縮した表情で石山が振り返る。
「ノリさんの十文字大学副学長就任は、なかったでしょう。ベントスのなでしこリーグ参戦に許可が下りたのも、ノリさんのおかげで学内の機運が一気に高まったからなんです」
石山の脳裏に焼き付いている光景がある。遠征に向かうバスの中でも時間を惜しみ、教科書や参考書を開いていたあるサッカー部員の姿だ。十文字高校は東京都内の巣鴨駅近辺にある。その生徒は学校まで、片道2時間かけて通学していた。「希望の大学があったんですね。夢に突き進むその背中で、部員たちを引っ張った彼女の存在は大きかった。後輩たちに、スゴい卒業生がいたんだぞって話もできます。すると同じような生徒が出てきて、毎年のように増えていく。今では部員同士、友達同士、助け合っているのでしょう」
サッカー部員の成績優秀者の比率は、かなり高い。具体的なパーセンテージを教えてくれた石山は、こう付け加えて笑いを誘った。「ちょっと、えばっちゃいました(笑)」。
石山が温めてきた十文字フットボール構想の実現への追い風となっているのが、今冬の高校選手権優勝だ。
「けっこう前から自分なりの主張はしてきましたが、最近まで見向きもされなかった(笑)。アイツ面白いこと言っているぞって、話を聞いてもらえるようになったのは、選手権の優勝もあるからでしょうね。勝つから注目されるし、でもちゃんと理念を持って地道にやらないと勝てないだろうし。ニワトリが先か、タマゴが先か、分かりません(笑)。勝つのも、ウン、重要ですよ」
4月末の快晴の日曜日、FC十文字ベントスが、なでしこチャレンジリーグの試合に臨んでいた。真昼の日差しは強く、198人と発表された観客の中には半袖の人もいる。
ベントス1点のリードで迎えた後半半ば、CFの中原さやかがタッチライン越しに声を掛けられた。彼女の視線の先には紳士が――。何やら中原にアドバイスを授けている。それまで黙って試合を注視していたその紳士こそ、なでしこジャパンの前監督で、日本の女子サッカーを11年のワールドカップ制覇に導いた佐々木則夫であった。
「なでしこジャパンが、昨年のリオ五輪に出場していたら……」
恐縮した表情で石山が振り返る。
「ノリさんの十文字大学副学長就任は、なかったでしょう。ベントスのなでしこリーグ参戦に許可が下りたのも、ノリさんのおかげで学内の機運が一気に高まったからなんです」