【浦和】五輪、W杯…”世界”を経験せずに引退した鈴木啓太の夢の行方

カテゴリ:Jリーグ

寺野典子

2016年01月22日

思い出したサッカーの楽しさを胸に現役を終える。

それまで練習も試合も「仕事だ」と割り切っていた鈴木は、ペトロヴィッチ監督との出会いでサッカーの楽しさを思い出し、笑顔で現役を退いた。写真:小倉直樹(サッカーダイジェスト写真部)

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 練習も試合も「仕事だ」という割り切った形でプレーしていた。月日が流れ、季節が変わっても、サッカーへの情熱の井戸は空っぽのままだったという。

「そういう僕の姿はきっとサポーターには見透かされていたと思う」

 2011年夏で契約が満了するため、浦和は延長オファーを提示。鈴木は半年間だけ延長に応じる2011年シーズンで現役引退を決意した。

 その2011年シーズンは、キャプテンとして残留争いを戦った。大きなものを背負い、ぎりぎりの戦いのなかで残留を決められたこと。鈴木の井戸に情熱が溜まり始めたのかもしれない。そのうえ、広島時代から、好印象を持っていたミハイロ・ペトロヴィッチの監督就任も後押しとなり、現役引退を翻意することになった。
 
「君たちの背負っているプレッシャーを降ろしてください」
 
 ペトロヴィッチ監督の言葉に心が震えた。大きなため息をつくように、長年溜めこんだ不必要な想いを吐き出せた。
 
「ずっと忘れていたサッカーを楽しむことを教えてくれた恩人。まだまだ僕もサッカーが上達するんじゃないかとワクワクしている」と鈴木はペトロヴィッチ監督について話している。
 
 プロになりたいと無我夢中で走り続けた少年時代。プロとしてあるべき姿を追求し続けた成長期。勝負のなかにある“楽しさ”を追い求め、夢へ向かう階段を登り続けた20代。しかし、人生を楽しんではいなかったと気づいた20代後半。そして今、ボールを蹴るだけで、これほど楽しいのかと子どもの頃を思い出す。
 
「夢や目標を手にするには、誰にも負けないだけの努力が必要です。でも、努力しても欲しいものが手に入らないのも現実。それでも諦めない人を尊敬するし、そういう人を応援したい。と同時に、ひとつの夢が潰えても、また新しい夢が浮かんでくる」

 アテネ五輪メンバー落ちをはじめ、鈴木が現役時代に味わった挫折や苦悩は数限りない。しかし彼は、その悔しさをバネにして、奮闘してきたわけではないのかもしれない。それほど人生は単純でもないし、悔しさから解放されてこそ、新しいドアが見つかるのかもしれない。
 
 鈴木啓太。その人生はまだまだ「終わりなき旅」なのだろうから。
 
取材・文:寺野典子(フリーライター)
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