メジャー大会2連覇に挑むEURO2016に向けての課題は――。
遠藤:そういえば、先日のU-17欧州選手権をチェックしたのですが、ドイツU-17代表はA代表とまったく同じコンセプトを持ったチームでした。ちょっと驚くくらい。
浜野:コンセプトの伝達役を担っているのが、ドイツ・サッカー連盟のスポーツディレクターを務めているハンジ・フリックです。
ブラジル・ワールドカップまではドイツ代表のアシスタントコーチでした。レーブ監督とともに代表のコンセプトを決めて、A代表や各ユース年代の代表に伝えることが、彼の主な仕事ですね。
遠藤:先日、お会いしたそうですね。
浜野:はい。フリックの脇を固めているのがアナライズチーム(分析班)で、その管轄下に私が所属している「チーム・ケルン」があります。
レーブ監督とアナライズチーム長のウルス・ジーゲンターラー氏がつねに世界を飛び回り、サッカーの流れやトレンドに目を配っているんです。
遠藤:レーブはブンデスリーガもよく視察していますし、研究者肌の監督ですよね。
浜野:今年のアジアカップも視察していましたし、いま開催中のコパ・アメリカにも足を運ぶようです。
ちなみに、ワールドカップ前にはラームの起用法について、バイエルンに話を聞きに行っていました。
レーブとアナライズチームはサッカーの最先端をつねにチェックし、それを一度自分たちの中に取り込んでから、ドイツ代表の顔ぶれを考慮して、「ドイツのサッカー」はこれだというコンセプトを決めています。そのコンセプトが、いまは「ゼロトップ」と「前線の流動性」。そう推測できますね。
遠藤:ユース年代の代表まで一貫して同じコンセプトのサッカーに取り組むのは、メリットとデメリットがあるように思います。
浜野:強みは比較的スムーズに上のカテゴリーへと選手が上がっていけることですね。
遠藤:デメリットとして考えられるのが、育成選手の均一化です。例えば、ゼロトップが主流であれば、典型的なフォワードが頭角を現わしにくい。
浜野:まさにおっしゃる通りです。上手くいっている間はいいのですが、上手くいかなくなった途端に、それが問題視されることになったりする。
ゼロトップばかりに注目していたら、クローゼのような選手はなかなか出てこなくなってしまうでしょう。例えば、グラッドバッハ(ボルシアMG)からヴォルフスブルクへの移籍が決まったマックス・クルゼ。彼はブンデスリーガで結果を出していますが、代表ではとても窮屈そうに見えます。
遠藤:来年のEURO制覇に向け、ドイツ代表の具体的な課題は何でしょうか?
浜野:戦術オプションを増やす必要があるでしょう。つまり、「プランB」を用意できるかどうか。ワールドカップ決勝では延長に入るまで、クローゼを最前線に配す「プランA」で戦い、その後、ゲッツェを配すプランBに切り替え、違った形のサッカーで結果を残しました。
典型的なフォワードを招集すべきだというわけではありません。例えば、アメリカ戦では中央突破に固執して、それが上手くいきませんでした。その時にベララビやヘアマンといったサイドアタッカーを活かす策を効率的に使えるかが肝心です。
遠藤:アメリカ戦での唯一の得点は、まさにサイドから生まれましたね。
浜野:これからEUROに向けて、長所や課題がさらに顕著になってくると思います。ちなみにチーム・ケルンの中には、6月のEURO予選の相手がアイルランドやポーランドではなく、「ジブラルタルでよかった」と胸を撫で下ろすような雰囲気がありました(笑)。[編集部・注/6月13日のジブラルタル戦は7-0で圧勝]
【識者プロフィール】
浜野裕樹
1988年生まれ。ドイツ・サッカー連盟公認B級ライセンス(UEFA-Bレベル相当)を保持する指導者で、現在は『1.Jugend-Fussball-Schule Köln』のU-9カテゴリーで選手育成に力を注ぐ。育成のエキスパートを志して、大学卒業後に渡独。2012年よりドイツ代表直属のスカウティングチーム『チーム・ケルン』に唯一の日本人として所属し、2014年のワールドカップでドイツ代表を陰から支えた。指導者としてのさらなる成長に加え、スポーツアナリストとしての経験を日本のために発揮できる日を夢見ている。
遠藤孝輔
1984年、東京都中野区生まれ。2005年からワールドサッカーダイジェストEXTRA、07年からワールドサッカーダイジェスト編集部に所属し、ドイツ代表およびブンデスリーガを担当。ニコニコ生放送の「ブンデスリーガチャンネル」でゲスト解説を務めた時期も。ドイツ以外の欧州サッカーにも精通し、日本代表のアギーレ前監督が退任した際、真っ先にハリルホジッチを後任候補のひとりに挙げた。14年に日本スポーツ企画出版社を退社。現在はフリーライター兼編集者として活躍する。
浜野:コンセプトの伝達役を担っているのが、ドイツ・サッカー連盟のスポーツディレクターを務めているハンジ・フリックです。
ブラジル・ワールドカップまではドイツ代表のアシスタントコーチでした。レーブ監督とともに代表のコンセプトを決めて、A代表や各ユース年代の代表に伝えることが、彼の主な仕事ですね。
遠藤:先日、お会いしたそうですね。
浜野:はい。フリックの脇を固めているのがアナライズチーム(分析班)で、その管轄下に私が所属している「チーム・ケルン」があります。
レーブ監督とアナライズチーム長のウルス・ジーゲンターラー氏がつねに世界を飛び回り、サッカーの流れやトレンドに目を配っているんです。
遠藤:レーブはブンデスリーガもよく視察していますし、研究者肌の監督ですよね。
浜野:今年のアジアカップも視察していましたし、いま開催中のコパ・アメリカにも足を運ぶようです。
ちなみに、ワールドカップ前にはラームの起用法について、バイエルンに話を聞きに行っていました。
レーブとアナライズチームはサッカーの最先端をつねにチェックし、それを一度自分たちの中に取り込んでから、ドイツ代表の顔ぶれを考慮して、「ドイツのサッカー」はこれだというコンセプトを決めています。そのコンセプトが、いまは「ゼロトップ」と「前線の流動性」。そう推測できますね。
遠藤:ユース年代の代表まで一貫して同じコンセプトのサッカーに取り組むのは、メリットとデメリットがあるように思います。
浜野:強みは比較的スムーズに上のカテゴリーへと選手が上がっていけることですね。
遠藤:デメリットとして考えられるのが、育成選手の均一化です。例えば、ゼロトップが主流であれば、典型的なフォワードが頭角を現わしにくい。
浜野:まさにおっしゃる通りです。上手くいっている間はいいのですが、上手くいかなくなった途端に、それが問題視されることになったりする。
ゼロトップばかりに注目していたら、クローゼのような選手はなかなか出てこなくなってしまうでしょう。例えば、グラッドバッハ(ボルシアMG)からヴォルフスブルクへの移籍が決まったマックス・クルゼ。彼はブンデスリーガで結果を出していますが、代表ではとても窮屈そうに見えます。
遠藤:来年のEURO制覇に向け、ドイツ代表の具体的な課題は何でしょうか?
浜野:戦術オプションを増やす必要があるでしょう。つまり、「プランB」を用意できるかどうか。ワールドカップ決勝では延長に入るまで、クローゼを最前線に配す「プランA」で戦い、その後、ゲッツェを配すプランBに切り替え、違った形のサッカーで結果を残しました。
典型的なフォワードを招集すべきだというわけではありません。例えば、アメリカ戦では中央突破に固執して、それが上手くいきませんでした。その時にベララビやヘアマンといったサイドアタッカーを活かす策を効率的に使えるかが肝心です。
遠藤:アメリカ戦での唯一の得点は、まさにサイドから生まれましたね。
浜野:これからEUROに向けて、長所や課題がさらに顕著になってくると思います。ちなみにチーム・ケルンの中には、6月のEURO予選の相手がアイルランドやポーランドではなく、「ジブラルタルでよかった」と胸を撫で下ろすような雰囲気がありました(笑)。[編集部・注/6月13日のジブラルタル戦は7-0で圧勝]
【識者プロフィール】
浜野裕樹
1988年生まれ。ドイツ・サッカー連盟公認B級ライセンス(UEFA-Bレベル相当)を保持する指導者で、現在は『1.Jugend-Fussball-Schule Köln』のU-9カテゴリーで選手育成に力を注ぐ。育成のエキスパートを志して、大学卒業後に渡独。2012年よりドイツ代表直属のスカウティングチーム『チーム・ケルン』に唯一の日本人として所属し、2014年のワールドカップでドイツ代表を陰から支えた。指導者としてのさらなる成長に加え、スポーツアナリストとしての経験を日本のために発揮できる日を夢見ている。
遠藤孝輔
1984年、東京都中野区生まれ。2005年からワールドサッカーダイジェストEXTRA、07年からワールドサッカーダイジェスト編集部に所属し、ドイツ代表およびブンデスリーガを担当。ニコニコ生放送の「ブンデスリーガチャンネル」でゲスト解説を務めた時期も。ドイツ以外の欧州サッカーにも精通し、日本代表のアギーレ前監督が退任した際、真っ先にハリルホジッチを後任候補のひとりに挙げた。14年に日本スポーツ企画出版社を退社。現在はフリーライター兼編集者として活躍する。