プロフットボーラーにおける「天才の定義」。カズ、中田は天才なのか?

カテゴリ:連載・コラム

加部 究

2020年06月29日

頭脳明晰な秀才が天才に肉薄した典型例とは…

マジョルカで活躍中の久保は今後どんな成長を遂げるのか。(C)Getty Images

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 Jリーグが開幕した1993年には、日本でU-17世界選手権(当時)が開催された。日本代表の監督が国見高校を指揮する小嶺忠敏で、ヘッドコーチは読売クラブのユースを指導していた小見幸隆。生徒を坊主にして鍛え抜く監督と、個の趣向と技術が命だと考えるコーチ。水と油の関係が、どうしてかみ合ったのか尋ねたことがある。小見は答えた。

「僕は選手を見極める時に、止める、蹴るは大前提として、いつ、どこを見ているかを重視します。相手の裏をかく、逆を取る。つまり日本の教育者や指導者が暗に否定してきたサッカーの色気です」

 チームには2本の柱があった。10番をつける読売育ちの財前宣之と、韮崎高校在学中の中田英寿である。小見は全てのメニューに取り組む前に財前を呼び「格好良くやれよ」と注文を付けて模範プレーを託した。華麗にボールを扱う財前を、小嶺の愛弟子に当たる船越優蔵(国見高→G大阪)や松田直樹(前橋育英高→横浜)など高体連出身の選手たちが呆気に取られた様子で見ていたという。だがそんな財前が「小見さんがいなかったら僕は代表に入っていなかったでしょうね」と振り返る。

 フィジカル中心の「小嶺メニュー」に変わった途端に、財前は劣等生に変わった。対照的に図抜けた能力を見せつけたのが中田だった。小見が教えてくれた。

「しっかりとしたキックが出来て、身体能力が高くヘディングも強い中田は、昔の代表選手タイプでした。400メートルを10本なんていうメニューがあると、ひとりだけすべて1分を切り、それでいて心拍数が160くらいまでしか上がらない」

 中田を天才と評す声は少ないかもしれないが、多様な天賦の才には恵まれていた。フィジカル能力もさることながら、それ以上に特筆するべきなのは人並み外れた聡明さと自立の早さだ。中田は海外で活躍する未来像から逆算し、ブレずに先手を打ち続けた。罰走を指示されれば、その効果をコーチに問いかけ、折り合いそうもない高校の勧誘は平然と断った。早くから外国語を学び、必要な身体作りを進め、Jリーガーになると世界で通用するキラーパスを想定して高速のインサイドキックを追求し続けた。頭脳明晰な秀才が天才に肉薄した典型例だろう。

 逆にU-17世界選手権でベスト11に選ばれ、間もなくラツィオに留学した財前は、度重なる大怪我に欧州での成功を阻まれた。

「生意気盛りだったガキの頃は、頑張って走っているヤツらを見ながら、サッカーはテクニックだから、と思っていました。でも身体能力は努力しても追いつかない。だから彼らにテクニックがついたら強い。それにヒデはあまり上手くない頃からよく点を取っていました」

 一方カズ(三浦知良)には、中田のような身体能力や理詰めの計画性はなかった。しかし破天荒な発想と意思の強さで冒険を貫き、ブラジルという極限の環境を味方に夢を実現した。もちろん素養はあったとしても、おそらく主に大成を支えたのは後からの肉付けだ。

 そして今、日本で生まれ、スペインで育った新世代の天才が躍動している。天才を計画的に生むことは出来ない。だが才能が健やかに伸びていく土壌がなければ、生まれても萎んで消えてしまう。くれぐれもスタジアムを熱狂させるのは、規律正しい労働ではない。<文中敬称略>

文●加部究(スポーツライター)

※サッカーダイジェスト7月9日号から転載

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