微笑みの国の西野監督【タイ代表監督就任後初の独占インタビュー】

カテゴリ:国際大会

増島みどり(スポーツライター)

2020年02月20日

 「スカーレット」で始まるいつもの朝と、森保監督と語り合った特別な夜

日本代表監督として臨んだロシアW杯はベスト16。短い準備期間ながら、素晴らしい仕事をした。写真:滝川敏之

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 西野のバンコクでの平均的な毎日は、5時50分の起床からスタートする。ずい分早いようにも思えるが、年齢のせいではない理由がある。日本時間との時差は2時間。日本時間の7時50分までに起きて先ずコーヒーを淹れ、リビングのテレビを点ける。現地でも見られるNHK朝の連続テレビ小説「スカーレット」を8時から観るためだ。日本のサッカー最多勝利数を誇る監督の一日は、もうずいぶん前から朝の連続テレビ小説で女性主人公たちの人生に触れる時間で始まる。勝負の刹那に身を置く監督が、日本から遠く離れたバンコクで、連続ドラマで女性陶芸家の半生を追う姿はどうにもミスマッチだが、「海外だからこそ、毎日見られる日本のドラマにハマるんだよ」と笑う。

 協会でのミーティングなど仕事が入っていれば、ジムで身体を動かしてから協会へ向かう。「トムヤンクン」や辛いタイ料理は好みに合うそうで、「胃袋をがっちり掴まれた」と、タイのマーケットにもひとりで出かけて食料を買い込み自炊をする。G大阪時代にも、休日は京都や奈良の神社・仏閣巡りをしており、バンコクでも寺院巡りは続けている。

 1月、U-23アジア選手権のグループリーグで敗退した日本代表、森保監督はタイを出発する日、スタッフに帰国の準備を頼み、1人で西野監督のもとを訪ねたという。
 
─—タイで西野監督が8強に進出した一方で、日本は1勝もできずに敗退しました。兼任は無理、解任しなければ地元の五輪でメダルが取れないだろう、といった声があがっています。

西野 タイの宿舎に森保監督はリュックを背負って1人で来たんだ。挨拶に行くって連絡をくれてね。だからタイのチームみんなで出迎えて、こちらが日本代表監督でらっしゃる森保さんです、と。アイツは、やめてください、って照れていたけれど、タイのみんなからすれば、そういうあこがれの存在でしょう。スマホをテーブルに置いたんで、しばらくはいいじゃないか、と、スマホをこうやってひっくり返してね、ゆっくり話ができたのは自分にとってとてもうれしかったし、いい時間だった。

─—批判については?

西野 決勝を見ると(韓国対サウジアラビア)日本のプレーのクオリティが高いのがよく分かる。自分が代表監督になったロシアの前、覚えている?

─—西野ジャパンに期待しない、というファンの声が大多数だ、と言われていました。会見で監督はこれについて質問され、あぁそうなんですか、今初めて知りました、と答えた。

西野 そう、あれは頭に来たからわざとまったく知りません、と答えたんだ。結果だけが問われる世界で、監督がそうやって、マスコミの批判の矢面に立つのは当然、それが仕事だから。森保はそんな話、百も承知。

─—色々な話をされたと思いますが、監督は何とアドバイスを?

西野 森保にアドバイスなんてあるわけがない。ひと言、ブレるな、とだけ。彼が広島で監督をし、自分は神戸の監督で結果が出なくて苦しんでいた頃、練習試合をお願いできますか? と、連絡があって、広島からバスで選手を連れてひょっこりやって来て試合をしてくれた。彼のチームへの考え方やアプローチ、強い性格どれを取っても、自分も教えられた。だからただひとつ、ブレないようにと。

─—西野さんよりメンタルが強いと?

西野 ずっと腹が座っている。

─—監督の条件でしょうか。特に代表監督では。

西野 タイでも言葉だけではなく文化や習慣、色々な違いはあるし、戸惑いもある。でも自分は我慢とか耐えたりせずに……先天的にほら、そういう感覚を持っているから。

─—鈍感力?

西野 エッ、そう思ってたの? そう、気にしないというか、目標を定めて全力でそこに向かう。そもそも監督がブレたら選手はどうする?

─—W杯2次予選が再開します(日本はF組4戦全勝で勝点12の首位、タイはG組勝点8で3位)。

西野 自分が就任してから3回ベトナムと対戦して3回とも引き分け。パク(・ハンソ/韓国国籍)監督は、下からの強化を含めて本当に素晴らしいチームを作っていて、なかなか勝てない。でも今回、五輪には出場できなかったけれど、8強進出がタイ代表にとって、とても大きな自信となり、財産になったと思っています。最終予選に進むチャンスは十分にある。狙っていきますよ。(取材・文:増島みどり/スポーツライター)

<プロフィール>
西野 朗(にしの・あきら)
1955年4月7日生まれ、埼玉県出身。現役時代はMFとしてプレーし、早稲田大在学中に日本代表に選ばれた。90年に現役引退後、指導者に転身。94年にU-23日本代表監督に就任してアトランタ五輪出場に導くと、本大会のブラジル戦での勝利(マイアミの奇跡)で一躍脚光を浴びる。98年に監督主任した柏では、99年にリーグカップ優勝。2000年にはタイルこそ獲得できなかったが、チームの躍進に尽力してJリーグ最優秀監督に選ばれた。02年よりG大阪を率いて、退任する11年シーズンまで数々のタイトル(J1リーグ、リーグカップ、ACL、ゼロックススーパーカップを各1回、天皇杯を2回)を獲得した。その後、神戸、名古屋の監督も歴任(J1リーグの監督としての通算勝利数270は歴代1位)。16年3月に日本サッカー協会の理事となり、技術委員長を経て、18年4月9日、解任されたヴァイッド・ハリルホジッチ氏の後任として日本代表監督に。そこから短い準備期間ながらも、ロシア・ワールドカップではベスト16という結果を残した。19年7月1日からタイのA代表とU-23代表の監督を兼任し、20年1月には同職の2年間の契約延長が決まった。

<タイ代表での戦績>
A代表
カタール・ワールドカップ・アジア2次予選
グループG 3位(2勝2分1敗)
19年9月5日 対ベトナム(H) △0-0
19年9月10日 対インドネシア(A) 〇3-0
19年10月15日 対UAE(H) 〇2-1
19年11月14日 対マレーシア(A) ●1-2
19年11月19日 対ベトナム(A) △0-0

U‐23代表
アジアU-23選手権 ベスト8敗退
グループリーグ
20年1月8日 対バーレーン 〇5-0
20年1月11日 対オーストラリア ●1-2
20年1月14日 対イラク △1-1
決勝トーナメント
20年1月18日 対サウジアラビア ●0-1
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