現地記者は「まるでプリーチャー(伝道師)だな」と言った。
シーズンを通して本田を見守った指揮官の本田への思いも聞けた。あとは、もう少し本人の口から、突っ込んだ話を聞ければとミックス・ゾーンに急いだ。勝手な思い込みだが、最後でもあるし、なんとなく話してくれるのではという淡い期待もあった。
程なく姿を見せた本田は、チラと待ち構える日本人の取材陣に視線を送った。「少しお話、いいですか」と筆者が声を掛けると、「いや、ごめんなさい」とだけ言って、引き上げていった。かくして、本田の豪州最後の夜は終わった。
それはそうだ。そんなに簡単に話を聞けるものではない。前日の会見で本田は監督と交互だったとは言え、20分以上の長丁場を全編英語で対応した。そこから彼のメッセージを拾うことにしよう。
幾つかのコメントの中でも、一番印象だったのは、これ。
「今までのキャリアを振り返ってみると、いつも悪い事のほうが思い出に残っている。ネガティブな意味ではなくて、(失敗から)学ぶことが好きで、その学びから未来に向けて努力ができると信じてきた。その意味での(今回の豪州挑戦の)ハイライトは、先週のシドニーでの敗戦(6-1で敗れたセミファイナル)。もちろん言い訳はできないが、自分もチームに関しても、正直なところ、もう少し出来た、いやもう少しやるべきだった。過去には戻れないので、そこでの経験を自分の未来に生かしたい」
程なく姿を見せた本田は、チラと待ち構える日本人の取材陣に視線を送った。「少しお話、いいですか」と筆者が声を掛けると、「いや、ごめんなさい」とだけ言って、引き上げていった。かくして、本田の豪州最後の夜は終わった。
それはそうだ。そんなに簡単に話を聞けるものではない。前日の会見で本田は監督と交互だったとは言え、20分以上の長丁場を全編英語で対応した。そこから彼のメッセージを拾うことにしよう。
幾つかのコメントの中でも、一番印象だったのは、これ。
「今までのキャリアを振り返ってみると、いつも悪い事のほうが思い出に残っている。ネガティブな意味ではなくて、(失敗から)学ぶことが好きで、その学びから未来に向けて努力ができると信じてきた。その意味での(今回の豪州挑戦の)ハイライトは、先週のシドニーでの敗戦(6-1で敗れたセミファイナル)。もちろん言い訳はできないが、自分もチームに関しても、正直なところ、もう少し出来た、いやもう少しやるべきだった。過去には戻れないので、そこでの経験を自分の未来に生かしたい」
さらには、豪州の時代を担う若い選手への最後の提言も飛び出した。
「この国の若い選手に『他の誰も君の夢を実現できない。できるのは自分だけ。君こそが自分の夢を実現できる』とずっと言ってきた。豪州は日本と同じく快適で、アスリートが成功のためにハングリーになるには、クレージーな努力をしなくてもやれてしまうと言う意味ではベストの環境ではない。だから、いつも若い選手にはそのことを意識して欲しい。何を成し遂げたいのか決心しなければならない。そして、一度決心したらあとはやるっきゃない」
最後のメディア対応でも、本田はどこまでも己のスタイルを貫いた。会見後、顔見知りの現地記者は「まるでプリーチャー(伝道師)だな」と言った。やはり、相当のインパクトがあったようで、翌日の新聞でも上でも引用した若手への提言が大きく取り上げられていた。そんな会見の翌日でもあったから、広島戦の試合後のノーコメントは「昨日の会見で言うことは言った」という意味での行動だと解釈しておく。
この原稿を書き上げて、ふと気になったので、冒頭のリンクにオークションの様子を見に飛んだ。
すると、すでに11人が入札を試みて、価格も370ドル(約3万円)まで上がっていた。この身長30センチの「リトル本田」の行き先は、オークション期限の3日後には分かるが、「リアル本田」の来季の所属となると、分かるのはまだまだ先になりそうだ。
すでにカリスマは豪州を去った。その最後の勇姿を見届けた筆者は、カリスマが遺したレガシーがどう受け継がれていくのかを、ここ豪州の地で見守っていくことにしたい。カズ、小野、本田が踏みしめたダウンアンダーの地。次は誰がこの国でボールを蹴ってワクワクさせてくれるだろうか――それだけを楽しみにしながら。
取材・文●植松久隆(フリーライター)