雪が降りだして、内心は“しめた”と思っていた
運命の日を迎える。1998年1月8日、国立霞ヶ丘競技場。好敵手・帝京と決着を付ける日が来た。だが降りそうで降らなかった雪は、選手権決勝のキックオフ1時間前になって突然、猛烈な勢いで“聖地”を襲うのだ。
すでにスタジアム入りしていた志波監督は、試合前の控室前であった出来事を明かしてくれた。カナリア軍団を率いる大先輩、古沼貞雄監督とのちょっとしたやりとりだ。
「いまでもよう覚えとる。屋内でウォーミングアップをしてるときに、パラパラ振り出した。雪が降りだしたなと思って、僕はピッチの様子を見に行ったんです。この降り方はまずいな、積もるかもなと思ってふと横を見たら、古沼さんも見に来ていた。『やりたくないね』と話されたんで、『そうですねぇ』と相槌を打ったんだけど、内心は“しめた”と思っていたんだ。うちがもっとも警戒してたのは、帝京の木島(良輔)のドリブル。夏と同じだ。でもこの雪でそれが消される。パスはね、どうでもいいったい。中田(浩二)のフィードも金杉(伸二)の強さと高さも脅威だったけど、木島にドリブルで持っていかれたらそのままゴールまでやられる。あれは大きかったよね」
まさに豪雪だったが、東京都サッカー協会を中心とした運営サイドが総出で雪かきをし、両チームも観衆も驚くほど、それなりのサッカーができる環境に整えられた。志波先生も「本当にありがたかったし、頭が下がる想いだった」と感謝を口にする。そして、名将はチームを勝たせるため、ひとつの賭けに出た。自身の信念とも言える4-1-4-1システムを捨てたのだ。後にも先にも、あの雪の決勝の一度きりだという。
「ピッチの状態は思っていたより良くなっていたけど、ボールがどう止まるかはやはり読めない。強いボール、強いパスを出させて、攻撃のプレーヤーはそこをめがけて追っかければいい。でも、守備はそうはいかない。追っかけられないから、かなり不利になる。だから3バックの3-4-3にしたんです。手島(和希)をリベロに置いて奥行きを持たせて、保険をかけた。勝つためにね。どうしても彼らを勝たせてやりたかった。雪が強く降りだしてすぐに、即決しましたよ」
2シャドーと両ワイド、そして1トップで構成する攻撃陣の形は変わらない。ただ守備は典型的な3バックで、両ストッパーの金古聖司と千代反田充を敵の2トップ、木島と金杉にマンマークで付かせた。その前には山崎理人と宮崎啓太の2ボランチを置き、ルーズボールへのケアを徹底。システムも守備戦術もまるでやったことがないぶっつけ本番だ。結果、「やりたいようにやっとったね、アイツらは。さすがに唸ったよ」と、難なく体現した教え子たちの対応力に、舌を巻いたという。
すでにスタジアム入りしていた志波監督は、試合前の控室前であった出来事を明かしてくれた。カナリア軍団を率いる大先輩、古沼貞雄監督とのちょっとしたやりとりだ。
「いまでもよう覚えとる。屋内でウォーミングアップをしてるときに、パラパラ振り出した。雪が降りだしたなと思って、僕はピッチの様子を見に行ったんです。この降り方はまずいな、積もるかもなと思ってふと横を見たら、古沼さんも見に来ていた。『やりたくないね』と話されたんで、『そうですねぇ』と相槌を打ったんだけど、内心は“しめた”と思っていたんだ。うちがもっとも警戒してたのは、帝京の木島(良輔)のドリブル。夏と同じだ。でもこの雪でそれが消される。パスはね、どうでもいいったい。中田(浩二)のフィードも金杉(伸二)の強さと高さも脅威だったけど、木島にドリブルで持っていかれたらそのままゴールまでやられる。あれは大きかったよね」
まさに豪雪だったが、東京都サッカー協会を中心とした運営サイドが総出で雪かきをし、両チームも観衆も驚くほど、それなりのサッカーができる環境に整えられた。志波先生も「本当にありがたかったし、頭が下がる想いだった」と感謝を口にする。そして、名将はチームを勝たせるため、ひとつの賭けに出た。自身の信念とも言える4-1-4-1システムを捨てたのだ。後にも先にも、あの雪の決勝の一度きりだという。
「ピッチの状態は思っていたより良くなっていたけど、ボールがどう止まるかはやはり読めない。強いボール、強いパスを出させて、攻撃のプレーヤーはそこをめがけて追っかければいい。でも、守備はそうはいかない。追っかけられないから、かなり不利になる。だから3バックの3-4-3にしたんです。手島(和希)をリベロに置いて奥行きを持たせて、保険をかけた。勝つためにね。どうしても彼らを勝たせてやりたかった。雪が強く降りだしてすぐに、即決しましたよ」
2シャドーと両ワイド、そして1トップで構成する攻撃陣の形は変わらない。ただ守備は典型的な3バックで、両ストッパーの金古聖司と千代反田充を敵の2トップ、木島と金杉にマンマークで付かせた。その前には山崎理人と宮崎啓太の2ボランチを置き、ルーズボールへのケアを徹底。システムも守備戦術もまるでやったことがないぶっつけ本番だ。結果、「やりたいようにやっとったね、アイツらは。さすがに唸ったよ」と、難なく体現した教え子たちの対応力に、舌を巻いたという。