「サプライズ」の舞台裏――大久保嘉人はなぜ再生したのか

カテゴリ:日本代表

2014年05月12日

チームメイトからの信頼と父の死。

得点王を獲得した昨シーズンは、J1での通算100ゴールも達成。父の遺言に対する決意も強かった。 (C) SOCCER DIGEST

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 内容の悪い試合をした際に、大久保がチームメイトに言い続けてきたことがあった。昨年9月26日の名古屋戦を前にした取材でのことだ。
 
「悪い時は、言い続けたよ。『オレに出してオレが取られたら、オレのせいにしていいから』と。もらっても、それだけ自信があるから言ってるんだけど、負けている時はそれができてない」
 
 そして、そんな大久保の姿勢に味方も厚い信頼を寄せ、どれだけ周りに敵がいようともパスを出すようになった。大久保のこのキープ力には、ACLの日本人最多出場記録を更新し続けている、チームメイトの中澤聡太も一目置く。
 
「一番前であのキープができるのは、超一流だと思う。あんなFWはACLでも見当たらない。前はキープする感じじゃなくて、飛んできたボールを何とかしろ、という厳しい仕事だったと思う。でも今は(風間監督の戦術的に)足下にボールが入るし、たくさんボールを触れるから、ゴール前に入った時にも良いリズムで受けられるんだと思う」
 
 風間監督のサッカー理論によって、大久保は元来持っていたサッカーセンスが引き出され、それを日々の練習の中で磨いてきた。そして、チームメイトからの揺ぎない信頼を勝ち得たのである。
 
 そんな大久保が昨シーズン、得点王を獲得できた要因がピッチ外にもある。父・克博さんの死と、その遺書の存在だ。
 
 2013年5月8日に、克博さんが危篤状態に陥ったとの知らせを受けた大久保は、5月11日のC大阪戦で2ゴールの活躍を見せてそのまま帰郷。12日に病床で父の死を看取った。その後、遺品を整理する中で発見された遺書には、「日本代表になれ 空の上から見とうぞ」という言葉が遺されており、その亡き父の想いに応えるために、まずは得点王を目指すのである。
 
 とはいえ、点が欲しいからといって「ガツガツしていない」のも大久保の賢さで、その点について、大久保は「『オレがオレが』だと逆に点はあまり取れない。ディフェンスも付いてくるし」とその極意を述べている。ゴール前で周りを使うことでマークが分散し、それが結果的に自身のシュートチャンスを生み出すのだという。
 
 精神的な落ち着きに加え、シュート技術の向上も大久保のゴールラッシュには欠かせない要素だろう。川崎への移籍当初、パワーシューターではないとも話していた大久保は、ミドルシュートを連発していた8月下旬に「コツを掴んだ」と発言し、「アウトにかける」、「指で打つ」といったコツを明かしてくれた。
 
 相手が対策を講じてくれば、それを上回るシュートバリエーションを持つ。ゴール前でギチギチのハードマークが付き始めたシーズン中盤には、マークのゆるい中盤からのミドルシュートを決めるようになった。
 
 改めて振り返ると、26ゴールを決めた13年シーズンは、ハットトリックは一度もない。その一方で、出場したリーグ戦33試合中、19試合でゴールを決めている。派手に固め撃ちするのではなく、シーズンを通し、コンスタントにゴールを決めチームに勝点をもたらし続けた。シーズンごとに不安定だった以前の姿はなく、確実に計算できる選手となったのである。
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