ブラジル・サッカー復活の鍵は“過去”にあり――第3回「“フッチボル”の本質と真髄」

カテゴリ:連載・コラム

サッカーダイジェストWeb編集部

2016年07月08日

どこへ行こうとも、必ず伝統のスタイルに戻るのがブラジルだ。

A代表でも五輪代表でも、鍵を握るのはネイマール。唯一のエースを十分に活かすことで勝利がもたらされ、ブラジル・サッカー界を良い方向へ導く。 (C) Getty Images

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 振り子が大きく振り切れるような歴史を辿ってきたブラジル。無残な敗北を喫した際には超現実主義者の側面を押し出し、それまでと全く異なる様相のチームを作ったりしてきたからだ。

 しかしこれは、必要とあれば全てを受け入れるという柔軟性とも捉えられる。そしてダメならば、また方向転換したり、元に戻したりする。こういった姿勢は、伝統に縛られがちな欧州では見られないものだ。
 
 ただ、どこに行こうとも、その後には必ず伝統のスタイルに戻ってくるのも、ブラジル・サッカーの歴史である。50年の敗北で打ちひしがれて全てを否定したものの、58年に栄光をもたらしたのは、彼らの魂に植え付けられたジンガや個々の技、即興性といったものだった。
 
 いかに現在、サッカーにおいて戦術やフォーメーション、そしてフィジカルの重要性が高まる一方だといっても、選手が単なるアスリートと化したのでは、ブラジルは欧州、そして南米のライバルに対しても、アドバンテージを得ることはできないだろう。
 
 ところで現在、ブラジルの人材不足がたびたび叫ばれている。ネイマールを除けば、かつてどの年代にも多々存在した、いわゆる“クラック(天才)”が見当たらない。能力はあるが、小粒な選手ばかりだというのである。
 
 これには、ブラジルのクラブの状況が影響している。欧州に優秀な選手を売ることで生計を立ててきたクラブが、ある時から、より効率良く外貨を稼ぐため、最初から欧州クラブのニーズに合った選手を“製造”したのである。
 
 また、育成組織やシステムが整えられ、より厳しい選考基準が設けられたことで、一部のエリート以外にはチャンスが回らなくなった。プロの舞台に立てるのはクラブで“培養”される選手ばかりで、独学で技を高めたような“天然”の才能を見る機会はないという。
 
 子どもたちが自由奔放な環境のなかで技術を身に付けるとともに、ブラジル・サッカーの本質と真髄を身体に染み込ませた、かつての時代にいたようなクラックが出現することはもうないのだろうか。
 
 しかし考えてみれば、欧州クラブのニーズに合った選手を大量生産した結果、実際に多くのブラジル人選手が欧州クラブでレギュラーポジションを奪っており、また堅実かつ戦術眼に優れた守備的MFやDFの数は世界でもトップクラスにある。
 
 狙い通りの選手を生み出しているのだから、人材そのものが枯渇しているということはないと言えるだろう。問題なのは、方向性の設定である。
 
 もちろん、今からそれを設定し直したとしても、かつてのように魅力的なタレントの宝庫とするには、しばらく時間がかかるだろう。それは致し方のないことだ。日々変化しているサッカー界ではあるが、一朝一夕で事を成し遂げることは不可能である。
 
 2年前の自国開催のW杯、そして昨年、今年のコパ・アメリカと、恥をかかされ続けているブラジルだが、間もなく開幕するリオデジャネイロ・オリンピックでは、初の金メダル獲得に挑む。唯一の希望の星であるネイマールを中心に、開催国というプレッシャーに打ち勝って偉業を成し遂げることができれば、良い流れに一気に拍車がかかることだろう。
 
 現在、ブラジルの“フッチボル(サッカー)”は、その歴史において何度も経験してきた“産みの苦しみ”を味わっている最中なのである。(了)

 
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