ブラジル・サッカー復活の鍵は“過去”にあり――第3回「“フッチボル”の本質と真髄」

カテゴリ:連載・コラム

サッカーダイジェストWeb編集部

2016年07月08日

“美しさ”を追求し、なおかつ負けることを良しとはしない。

黄金の中盤を軸に見事なサッカーを披露した82年W杯。国民にとって誇りともいうべきチームだが、その記憶は必ず勝てなかった悔しさを呼び起こす。 (C) Getty Images

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ペレの出現により、ブラジルはどん底から立ち上がり、「サッカー王国」としての地位を確立した。その偉業は現在公開中の映画でも描かれたとおりだ。では、現在のブラジルが2年前の夏以来の「暗黒のトンネル」から抜け出すには、何が必要なのか――。

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 “サッカーの王様”ペレによって、ブラジルは悲願の世界制覇を果たし、そこから「サッカー王国」として世界に君臨することとなった。
 
 1970年メキシコ・ワールドカップで3度の優勝を果たし、ジュール・リメ・カップの永久保持という栄誉を授かったブラジルは、ここから常に勝者であることを宿命付けられたのである。
 
 それだけでない。勝利以外に、内容も求められた。見る者を魅了するファンタジーを披露した上で結果も出さなければならないのだ。これほどの難問を常に国民から突きつけられる代表チームは、他にはないだろう。
 
 ゆえに、94年アメリカW杯、2002年日韓W杯のチームは、世界制覇を果たしたにもかかわらず、その評価はあまり高くない。スペクタクルなサッカーを展開した82年スペインW杯のチームに対しても、「勝たなければ意味がない」という厳しい声がぶつけられた。
 
 かつてオランダのヨハン・クライフは「醜く勝つより、美しく負ける方が良い」と語ったが、ブラジル人は“美しさ”を追求し、なおかつ負けることを決して良しとはしない。内容に対する論争は、勝ってから初めて始まるのである。
 
 華麗なプレーを愛しながら、超現実主義的な一面を持つ。ムダなファンタジーは削ぎ落され、効率性が優先される。他のどの国よりも攻撃的なイメージがありながら、実際は守備の重要性をどこよりも認識している――。
 
 そんなふたつの対照的な顔を持つブラジル・サッカーの歴史は、19世紀の終わりに始まった。英国系ブラジル人のチャールズ・ミラーが、留学先のイングランドからサッカーボールを携えて帰国したのが、全ての始まりだと言われている。
 
 当時、ブラジルには多くの英国人がビジネス目的でやって来ており、それによってこの競技は都市部を中心に、スムーズかつスピーディーに浸透していった。労働者、学生と広まり、子どもたちのあいだでもボールを蹴るのが流行となったのである。
 
 1900年代に入ると、ブラジルに欧州との繋がりを断ち切ろうというムーブメントが起こり始める。とりわけ文化的な面でのアイデンティティーを求める傾向が強くなり、そのなかでサッカーが単なるスポーツの枠から外れることとなった。
 
 一部のインテリ層や政治家からは嫌われたサッカーだが、彼らの言う「野蛮な競技」は時とともにブラジル人の心を掴んで離さないものとなる。そして間もなくプロクラブ、プロリーグも創設され、数百万もの人々がこの競技に熱狂した。
 
 英国から伝来したサッカーが、これほどまでにブラジル中に浸透したのは、前述のような普及しやすい環境が整っていたこと以外に、黒人たちにフィットしたことも挙げられる。
 
 かつて奴隷としてアフリカらから連れてこられた黒人たちは、冷酷な地主への対抗手段としてカポエイラという蹴りを駆使する格闘技を編み出したといわれるが、その基本をなす動きは、“ジンガ”と呼ばれた。
 
 その後、カポエイラが禁止されたことで、ダンスのフリをし、音楽をつけるなどしてカモフラージュしながらもこの格闘技を守り続け、また同時にジンガも、彼らのあいだではごく自然な動きとして浸透していった。
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