ブラジル・サッカー復活の鍵は“過去”にあり――第3回「“フッチボル”の本質と真髄」

カテゴリ:連載・コラム

サッカーダイジェストWeb編集部

2016年07月08日

勝てば誇りとし、負ければ己を否定するほどの極端な行動に…。

評価は低いものの、サッカー界の流れにしっかり対応し、効率の良さが目立った94年W杯のチーム。 (C) Getty Images

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 「ゆらゆらした、揺れる動き」という意味を持つジンガは、サッカーにおいても活かされ、ブラジル人、とりわけ黒人選手のボールを持った動きは、他のどの国の選手とも異なるものとなった。
 
 それは単なる動きというだけでなく、ブラジル独自の技術体系の根幹をなすものであり、いわばこの国のサッカーの本質と真髄を語る上で欠かせない要素であると言えよう。
 
 独特のリズムと独自のアイデアによるボールさばきやフェイントで互いを騙し合うことで、それぞれの技術力が高まり、娯楽性も増していった。ここには、見た目は華麗なダンスなのに、強烈な破壊力を持つカポエイラと相通ずるものがある。
 
 白人優位社会のブラジルにおいて、サッカーだけは、この黒人によって生まれた“文化”が取り入れられ、国内リーグでは多くの黒人スターが生まれていった。そして少数ながらも、代表チームに黒人選手が招集され、勝敗を左右する重要な役割を担った。
 
 社会においては虐げられる有色人種にとって唯一ともいえる成り上がりの手段であり、白人にとってもブラジル人としてのアイデンティティーを感じられるサッカーは、この国にとって真に重要なものとなった。
 
 それゆえ、ひとつの勝敗が大きな喜びと悲しみを国民に与えることとなり、勝てば彼らはそれを誇りとし、負ければ途端に自信を失い、己を否定するほどの極端な行動を取った。50年ブラジルW杯などは、まさにその象徴的なものだろう。


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 自由奔放な個人の技術に頼ったこれまでのスタイルを否定し、ブラジル・サッカーの本質であるジンガをも捨て去ろうとした当時のブラジル。監督が決めたフォーメーションと戦術に従い、体力、走力を重視し、ひとりの持つ時間を短くしてパスで崩す欧州スタイルを取り入れようした。
 
 こういった動きは、何もこの時だけの話ではない。
 
 78年アルゼンチンW杯では、元軍人のクラウディオ・コウチーニョ監督が、オランダのようなトータルフットボールを目指して選手に陸上選手の要素ばかりを要求し、90年イタリア大会ではセバスチャン・ラザロニ監督が超守備的な5バックを採用したりもした。
 
 ブラジルといえども、世界のサッカーの潮流を無視することはできない。74年西ドイツW杯では、3度の優勝に胡坐をかき、世の流れに目を向けなかった結果、新勢力オランダに2次リーグで無残な敗北を喫することとなった。
 
 テレ・サンターナが魅力的な集団を作り上げた82年大会、続く86年メキシコ大会でも勝利を挙げられなかったことで、90年大会時の監督であるラザロニが現実的になったのは、ある意味当然の動きとも言えた。しかも当時、世界は守備的なサッカーに移行しつつあったのだ。
 
 5バックはあまりに極端だったとはいえ、根本の部分は94年アメリカW杯のカルロス・アルベルト・パレイラ監督に引き継がれ、ブラジルは堅い守備を軸に、「魅力のない中盤」と揶揄されながらも、ロマーリオ、ベベットの2トップの力で世界制覇を果たしてみせた。
 
 サッカー界の流れに沿ったチーム作りとそれに合う選手選考が成された時、それがスペクタクルに欠けるものだったとしても、ブラジルは必ず好成績を挙げてきたのだ。
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