一見すると、リーダーをメンバー外にするのはドライに映るかもしれないが、むしろ友情は強いかもしれない。森章は明桜との３回戦でベンチに入り、１－０で迎えた後半27分に途中出場。逃げ切りに貢献するどころか、インターセプトからの攻め上がりなど積極的なプレーも見せた。

　森章が、メンバー外となった時から明桜戦で途中出場した時までの心情を赤裸々に明かしてくれた。

「都予選決勝が終ったあとの東京都リーグでも試合に出ていましたが、体調不良をきっかけにスタメンの座が揺らぎ始め、選手権一週間前の練習試合では開始早々にPKを献上して、その後も散々なプレーをしてしまい、そこからメンタルもコンディションも落ちて信用を失ってしまいました。

　リーダー会議でベンチ入りメンバーを話し合い、外れることが決まった時はつらかったですね。でも、一緒にプレーしてきた仲間は僕のプレーをしっかり分かっているから、僕のプレーが良くなかったのはみんなの共通認識としてあるのも理解しているし、調子を落とした僕が悪かったから仕方がないと受け止めました。

　今まで、ベンチ外まで落ちることはほぼなかったので、今回はサブメンバーにも入れないとなり、もう失うものはないと吹っ切れたんです。リーダーをやってきたからこそ分かりますが、好き嫌いで選出しているわけではなく、しっかりとプレーを見て判断したうえでメンバーから外れたので、納得できている。だから練習への意識を変えて貪欲にアピールしました」

　選手が選手を正しいジャッジで選び、意見をぶつけ合って互いを高め合う。質の高い「切磋琢磨」を引き出しているのは、ボトムアップ方式のおかげだろう。かなり緻密にできあがっている組織は、やはり佐藤実監督が仕組み作りをしているそうだ。
 

「最初の頃は３年生の色が強かったんですが、過去には３年生の意見のチームが作られてしまうこともありました。なので、リーダーには各学年から選ぶようにして、なかにはご意見番のような存在も入れたり。

　最終決定者はキャプテンですが、リーダーはみんなの意見を吸い上げ、いわゆる民意を聞いて『今、こういうことが必要ですよ、またはこういうことになってしまっていますよ、大丈夫ですか？』と議論に持ち込むのが役割です」

　そして佐藤監督は、こうも付け加えた。

「サッカーはプレーだけではないんですよね。例えるなら、ここは小さな社会で小さな村。村を良くするために、みんながどう思ってやるのか。みんな自分の意見は必ず持っているけど、どうやったら反映されるのか。そういう社会構造を学ぶのも部活だと思います」

　2020年度に並ぶベスト８に到達した今年の堀越は、すでに記憶にも記録にも残るパフォーマンスを見せているが、プレー以外にも大切な「社会で生きるための経験値」が選手の身体に刻み込まれているだろう。初のベスト４進出なるか期待が膨らむが、高校卒業後の活躍も楽しみだから、選手たちの名前はしっかり覚えておきたい。

取材・文●志水麗鑑（フリーライター）

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