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【WEリーグ開幕記念インタビュー】W杯優勝を経て母親に。岩清水梓の特別なキャリアが新リーグのシンボルに

カテゴリ:女子サッカー

増島みどり(スポーツライター)

2021年09月10日

「プロ契約をしてもらえる選手として、ママさん、だけでは不十分」

ピッチを離れれば、もうひとつのアディショナルタイムが始まる。選手生活と子育てを両立させる岩清水の“パワー”は称賛に値。写真:WEリーグ

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 岩清水は陣痛が始まってから普通分娩で出産するまで、実に32時間以上を要する難産を経験した。その際、ち骨にひびが入るほどの負荷だったために腹筋も痛めてしまった。サッカー選手としてトレーニングの再開という現実に向き合った時、出産前の時期にできた、あるいは復帰を目指す上でやっておくべきだったトレーニングへの知識が「もっとあれば良かった」と感じたという。

 「ママさん選手」と周囲は容易く呼んでしまうが、そこに至る道のりは千差万別で、家族や個人の努力以上に、充実した情報や体制が必要だ。

 FIFAは昨年12月、今年からの運用を義務付けるとして、女子サッカー選手に少なくても14週間の産休を認め、その間、給与の3分の2を保障するようルールを新設した。

 日本でも、NTC(ナショナルトレーニングセンター、東京都北区)内には託児所が設置され、併設されているJISS(国立スポーツ科学センター)では「女性アスリートの育成・支援プロジェクト」で産前・産後のトレーニングを指導し、子どもの遠征帯同費の補助も進めてきた。トップ選手たちによる「ママアスリートネットワーク」など勉強会も行なわれるようになったが、欧米に比較すると、資金援助やデータの蓄積で改善が必要だろう。

 こうした大枠での支援策の設置に加え、ベレーザがスポンサーの協力で岩清水を支えるように、より細かく、現場のニーズや実行性において女性活躍を促進させる働きも、WEリーグに求められる。
 
「母になって、これまでとは違った目線でチームを引っ張れれば……素敵なリーグを作りたい」
 
──プロ開幕と、岩清水選手の復帰のタイミングが重なりました。

岩清水 私が復帰しようとするタイミングで、WEリーグに、多様性といった理念のひとつが掲げられて、自分は後からパズル全体のワンピースになれたように感じています。母親として今度はプロになるわけですから、アマチュアではなく、プロ契約をしてもらえる選手として、ママさん、だけでは不十分です。自分がピッチでプレーをする姿が、後の選手にもつながらなくてはいけないし、そこは私次第なんだというプレッシャーを自分にかけています。

──例えば東京五輪にも、アメリカの(アレックス・)モーガン(32歳)が、ちょうど岩清水さんと同じ頃に出産して(20年5月)代表に復帰していましたね。

岩清水 はい、彼女のインスタグラムを見ていました。東京には、新型コロナウイルス予防対策のため娘さんを同行できなったようですね。彼女のインスタで、妊娠中、お腹が大きいのにガンガン、ウエイトトレーニングをしている様子がアップされていて、それには驚かされました。無茶をしているわけではなく、この時期、ここまでのトレーニングができる、と、あらかじめプログラムを持っているからできるものでしょう。出産でチームを離れた後、中期から後期にできるトレーニングや、復帰を目指したプログラムが日本の女子選手にももっと気軽に提供されれば、と思いました。

──32時間以上も陣痛に耐えるような経験をされれば、もちろんメンタルでもさらにタフになると思いますが、何かほかに、復帰されて感じた変化はありましたか。

岩清水 親の目線と言いますか、どうしてそう考えるのか、とか、なぜそれを選択したのか、と、言葉や行動の背景や、環境などを思うようになったのが、もっとも大きな変化かもしれません。そういう目線で見ると、サッカーをしながらも学校の成績もとてもいい選手や、表現力や感受性が豊かな選手もいる。その選手の考え方を知ろうとしたうえで、コミュニケーションを取るようになりました。開幕に向かって、チームメイトにかける言葉、チーム全体にもたらす安心感といった面でも自分が果たす役割はあると思っています。

──息子さんはまだ、ママの仕事については分からないですよね。

岩清水 まだ分かりませんから、記憶に何かが残るようにしてあげたい。フィジカルのコンディションにも不安はありませんし、子どもを抱っこしてスターティングメンバーとしてピッチに入場するのを、まず目指します。日中のゲームは連れて行けますが、ナイトゲームやアウェーになったらどうしていくか、息子に頑張ってもらうかもしれませんし、「ママさん選手」って、絶対にひとりではなれないんです。支えてくれる方々の力がなければ。各チームにお母さんがいて、応援してくれる皆さんが一緒にサッカーを楽しめる。そういう、とても素敵なリーグになるよう、私も頑張りたい。

<プロフィール>
岩清水梓(いわしみず・あずさ)
1986年10月14日生まれ、岩手県出身。経歴は大沼SS-日テレ・メニーナ-日テレ・ベレーザ/日テレ・東京ヴェルディベレーザ。なでしこリーグのベストイレブンに13回選ばれているDFで、日本女子代表として11年のワールドカップ制覇に貢献。女子サッカー界を支える功労者のひとりだ。

取材・文●増島みどり(スポーツライター)

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