「『適応するのが早いね』ってよく言われます」という日本人選手は?
海外挑戦前の準備の重要性は、本田圭佑や吉田麻也(サンプドリア)らも強調するところだ。吉田は「もともと英語の勉強は好きだったし、サッカーバカになりたくないと思っていた」と話していたが、その意識が高ければ高いほど、実際に現地に行ってから言葉で躓くことは少ないだろう。「シュツットガルト時代は高徳(酒井=神戸)がいたし、マインツ時代は日本語の話せるパク・チュホ(蔚山現代)がいて助かった」と言う岡崎慎司(ウエスカ)も、レスター時代は慣れない英語でインタビューに応じるなど、できる限りの努力をしていた。そうやって自分からアクションを起こさなければ、何も始まらない。
「通訳が入ると他のチームメイトとの距離感が遠くなりがち。スタンダールに後から入ってきた小野裕二(G大阪)と永井謙佑(FC東京)も3か月だけ通訳がいたんですけど、いなくなった後の方が自分から積極的に溶け込もうとしていました」と川島は言う。彼らが短期間で前向きに変化したように、「誰かが助けてくれる」という感覚から脱しなければ、本当の意味での現地適応は叶わない。さまざまな困難やストレス、失敗はあるだろうが、それを恐れずにチャレンジ精神を持つことが非常に重要だ。特に若い選手ほど強く認識すべきではないだろうか。
今の20歳前後の欧州組で、こうした能力に長けているのが菅原由勢(AZ)で、元々15~16歳の頃から大人とも対等に話せるタイプだったが、2019年夏にオランダに渡ってからはより社交性に磨きがかかったようだ。
「『適応するのが早いね』っていろんな人に言われます。それは僕自身の性格もあるし、AZのチームメイトやスタッフが快い対応をしてくれて、何も困ることがないなかでサッカーに集中させてくれているのが大きいと思います。まあ正直、『海外に行って何が困るんだろう』と思っていたくらい(苦笑)。英語も来た当初より聞き取れるようになったし、ミーティングもほぼオランダ語だけど、英語で言ってもらえる時もある。語学面はもっと頑張って、サッカーを楽しみたいですね」
移籍から4か月後の2019年10月、彼は心底楽しそうにこう話したが、その後もコンスタントに試合経験を積み重ね、2020年10月のカメルーン戦ではA代表デビューも果たすなど、順調なステップを踏んでいる。その菅原に触発され、同期の中村敬斗(シント=トロイデン)や鈴木冬一(ローザンヌ)らも意識を高めているはず。幼稚園時代からインターナショナルスクールで育った齊藤未月(カザン)も全く問題ないだろう。次なる海外移籍予備軍と目される西川や三笘薫(川崎)も英語の勉強を始めているという。
そんな若い世代が増え、川島や吉田、長谷部誠(フランクフルト)らのように現地適応し、なおかつトップリーグに定着できる選手がさらに増えていけば、日本サッカー界の地位やレベルも向上する。いい流れを加速させていくことが肝要だ。
文●元川悦子(フリーライター)
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